MAIN CHARACTERS

CASABLANCA – 純潔の女王 –
CV: L!ly
次世代MMO「K or C」で秩序国(コスモス)、開かずの謁見の間に実装された超高性能NPC。
自陣を選んだ全てのゲームプレイヤーに”洗礼花”(イセミナ)を授ける「花の洗礼」を施す自然を根源とする膨大な魔力を有している。
支援防御魔法を得意とし、公式大規模PK戦では秩序国(コスモス)からの参加者に強力なバフを常時展開する後方支援演説型の女王である。
ちなみに、彼女と同じ百合属性の”洗礼花”(イセミナ)を引く確率はわずか0.3%といわれている。

NERINE – 愛の祷 –
CV: Lily(WAVE)
次世代MMO「K or C」、秩序国(コスモス)の騎士ギルド〈ナイツオブカランコエ〉に所属するトッププレイヤー。
ヒーラーのようだが、他職である騎士服を着用したり、公式大規模PK戦では魔攻隊に混じって本来の火力役を圧倒したりと、やりたい放題、規則違反もどこ吹く風の全方位戦闘狂である。
停戦期にはよく行方不明になることでも有名で、同騎士団で違反者捕縛の任を負う数多のプレイヤーがその追跡に手を焼かされている。
普段はかなり高圧的な少女だが、稀に別人のように上品な所作を見せる為にリアルの憶測も尽きない。
素性を知る者はひとりもいないようだが、どうやら完全攻略を狙って敵国プレイヤーに接触を図っているようで……?

SHIN – 晨の剣 –
CV: にーさん
次世代MMO「K or C」、秩序国(コスモス)に半年遅れてログインしてきたビギナープレイヤー。
リアルでは20歳の大学生で、本名は”朝陽”というようだ。
“ミカナギ”と呼ばれるこのゲームの開発者の大ファンで、彼の別作の優勝経験者であることからVR世界では”天剣”の異名を持つが、本人的には恥ずかしいようで、そう呼ばれるたびに微妙な顔を浮かべている。
剣での戦闘が大の得意で、細かいことを考えるのは苦手。
誠実で明るい性格で、誰からも好かれるコミュニケーションお化け。
ログイン初動で規則違反の神、ネリネからの手痛い洗礼を受けて以降彼女に振り回され続ける羽目になる彼だが、果たしてその結果や如何に……?

GODMOTHER – 機銃の女王 –
CV: miip
次世代MMO「K or C」で混沌国(ケイオス)、開かずの謁見の間に実装された超高性能NPC。
「母なる秘宝」を錬成する”聖杯”を有し、まるでプレイヤー達の抗争を望むかの如く、火種となるレアアイテムをこの弱肉強食の無法地帯に生み落とし続ける悪癖を持つ。
そんな彼女の至高の”仮初宝”(ペルソナ)を狙う高難易度クエストに挑むプレイヤーもいるようだが、今のところ全て返り討ちだ。
機銃の片腕による超広範囲攻撃を得意とし、彼女の姿を唯一拝める公式大規模PK戦では、その圧倒的な戦力を見せつける。
普段は好き勝手に単独で戦う混沌国(ケイオス)プレイヤーが畏怖し、自ら後に続く前衛戦闘狂の女王である。

ROSEE – 涙の夢 –
CV: 或夢
次世代MMO「K or C」、混沌国(ケイオス)所属のプレイヤーでガンナー職。
“国内一の弱者”と揶揄され、よくいじめられる姿が目撃されている。
それでもめげない優しく可憐な少女でもあるが故に、一部のプレイヤーとは割と親密な交流があるようだ。
リスポーン慣れしすぎているせいか、デスペナルティをまったく恐れない困った一面もあるようで、停戦期には無謀にもよく、敵地ファータ・クーラの壮大な花園を目指して冒険している。
そんな彼女だが、混沌国(ケイオス)所属プレイヤーに初期配布される”仮初宝”(ペルソナ)だけはとても大切に隠し持っているようだ。
その”海の涙”の美しい輝きに、果たして彼女は何を感じているのだろうか……?

TOBARI – 翳の月 –
CV: ツキミカド
次世代MMO「K or C」、混沌国(ケイオス)に半年遅れてログインしてきたビギナープレイヤー。
本名は”夜月”、朝陽とは同級生で、昔から仲の良い幼馴染だ。
かの”ミカナギ”が本命開発を続けるリアル鏡像VR世界、”L.A.N.”の中で出逢ったフレンドの少年に頼まれて、このゲームの完全クリアに乗り出した。
プレイヤースキルはそこそこだが、頭脳戦が得意な知能派で、細かいことを考えるのが苦手な”天剣”とはいいコンビ。
ログイン早々ビギナー狩りの被害に遭った彼は国内一の弱者、ロゼに助けられ、可憐な少女に対して徐々に恋慕の情を抱いていくことになるのだが……?
WORLD MAP

– KOSMOS陣地: FATA CULLA –

STORY
KOSMOS SIDE
騎士団 団長 LIZA(ライザ)の場合……

や……やったぁ~!!!当選だ~!!
私がこのK or Cにのめり込む半年前の記憶だ。
ミカナギのゲームの発売に心躍らされたのも束の間、その定員に限りがあると知った時には随分と冷や汗をかいたものだが、天は私に味方したらしい。
現実を再現したL.A.N.が試用稼働され始めてからというもの、私はただのリアル鏡像世界だけでは飽き足らず、かの開発者がそんな世界の各所に“お遊び”で用意する架空世界の方にすっかりハマってしまっていた。もう普通のゲームは、やる気にもならない。
あくまでL.A.N.の開発が優先なのだろう。彼のゲームは毎回とても面白いのに、“真のクリア者”が出るとそのサービスが閉じてしまう。
本当はずっと開いていてほしい。そう、何度思ったことか。
前回遊んでいたゲームでは“天剣”と謳われる男性が優勝をかっさらっていった。
私も結構いいところまでいったんだけどな。それはもう、本当に、悔しかった。



今度こそ……!
そんな想いを胸に次作の発表を待ち望んでいたところに、この「K or C」の抽選情報が舞い込んできた、というわけだ。
今回も“天剣”は居るんだろうか…?
そう、少し期待しながらログインしたのが半年前だったわけなのだが……。



居ない、みたいなんだよなぁ。
探せど探せど、該当しそうなプレイヤーは見つからず、そのまま半年が経過した。



ま、仕方ないか。抽選厳しかったしな。
彼の存在を何となく、常に探しながらも、気付けば私は自身が選択したこの秩序の世界、「ランド=コスモス」の騎士団長にまで上り詰めてしまって今に至る。



しっかし、どうしてクリアできないかなぁ?
今度こそ真のクリア者に、そう意気込んで、抽選に受かった名だたる廃人の友人達をこの騎士団に招集してみたものの、戦局は思わしくない。
一時期、8割ほど領土を奪えたこともあったが、それでもクリアにはならなかったのだ。



8割じゃダメってかぁ?厳しすぎるよ、ミカナギさん…。
我が陣営に“天剣”が居れば……
ライバルであれどもファンでもある。そんな複雑な想いに駆られたところで、騒がしくなった外に気付いて、私は音のする方へと意識を向けた。



……またネリネがなんかやらかしたかな…?
これは私に巻き込まれて騎士団の要職と化した友人達が困っていそうだ、と、その音の激しさに少しの苦笑いを浮かべた後、私は団長専用の豪華な部屋を後にする。
この後、まさか“天剣”と邂逅することになろうとは、この時、彼女は知る由もない。
騎士団 魔法攻撃隊 副隊長 RIE(リエ)の場合……



……。
勘弁してほしい。今日も秩序の“牢獄”は盛況だ。
半年前、学校で友達がやけに騒いでいたものだから、つい、興味本位で応募したこのゲーム。
なんだか随分レアものらしいけれど、なぜだかさっくり抽選に通ってしまった。
学校の友達はみんな落選したって言うから、私も落選したことにした手前、L.A.N.の該当ポータルからログインする時はいつも誰かに見られていないかひやひやしているのだけれど。
なんだかんだとハマってしまったわけで、この架空世界で新しいフレンドを見つけて、結構楽しく遊んでいた……ところまではよかったんだ。



最近、収監される人、多くない…?
そう、私が選んだこの秩序の世界、ランド=コスモスには数多くの規則が存在する。
開始当初は基本的なルールしかなかったのだが、ゲームの初期からあまりの強さに満場一致で騎士団長と化していったライザさんが、“敵国に勝つ為”にどんどん騎士団独自の規則を追加して、私はそれに賛同した一人になった、というわけだ。
それ以降、この秩序の国で遊ぶ全てのプレイヤーには、とあるシステムを利用した罰則が追加されて久しい。
その名も“自戒の牢獄”。
私が今居る、騎士団本部の建物の地下に属するエリアの名前だ。
檻に入れられた者は、なんと“ログアウト以外の行動”ができなくなる。
ゲームを遊びたい人間にとっては、最凶の罰則、というわけだ。



……はぁ。私もレベル上げ行きたい…。
フレンドからのダンジョン攻略のお誘いを断って、ここに来たのが先程のことだ。
こんなとこでも、課題、優先。ゲームなのにね。
だって、仕方ないじゃない。私がやらなきゃ誰も反省しやしないんだから。



ちゃんと守ってもらわないと、困るのよ。
そう不満げな顔を浮かべて呟いた後、私は、何とか気持ちを切り替える。



さてと~、ルビアさんからの今日の伝達は、と……。
自身の所属する魔法攻撃隊の隊長は、違反プレイヤー捕縛のプロだ。
多分PKをやらせても強いだろうが、殺すのは性に合わないらしい。根が優しいのだろう。
そんな優秀な彼女ではあったが、牢獄での“業務”はどうにも苦手らしく、「あとは任せましたわ~!」と違反者収監後の後処理を頼まれるようになったのが数ヶ月前。
要は“エンジョイ勢”へのお説教係だ。



“ライトプレイヤー”って何でこう…。
収監されるのは適当に遊んでいるプレイヤーが多い。
要は、騎士団の独自ルールを全然理解していない。
浅く広く、人と仲良くなれる性格だという自負はあるものの、正直、最近さすがに相手にするのが面倒になってきた。だって、何回言っても同じことするんだもん。
一部のプレイヤーなんて、私の見た目が幼女だからか、“ご褒美”とまでのたまわっている始末だ。



……あ。
少し憂鬱な気分で本日の収監者リストを眺めていた私だったが、とある名前に気付いて思わず小さく声を上げる。
“ネリネ”。罪状:敵国プレイヤーへのヒール行為。



えぇぇぇ…。嘘でしょ~…?
ふふふっ……と思わず笑みが漏れる。
“秩序一の問題児”。それが彼女の二つ名だ。



ネリネさんが居るなら、ま、いっか。
彼女の話は、楽しい。
他のプレイヤーと違って、毎回信じられないほどに破天荒な話が続出するからだ。
今回はどんな顛末を聞かせてくれるんだろうか。



ルビアさんにばれたら怒られちゃうな。
普段はかなり強いはずなのに、彼女の捕縛を試みては煙に巻かれて、最終的には“秩序最凶の聖女”の力を借りる羽目になる自身の隊長の機嫌を少し気にしながらも、私は“楽しみ”が出来た、と言わんばかりに、先程とは打って変わって晴れた表情で“彼女”の元へ向かうのだった。
大神殿 神官長 SAMSARA(サムサラ)の場合……
“機の女王(カサブランカ)に謁見を許された女”
このゲームの中で、私はそう呼ばれている。
半年前、ミカナギの新作が出ると聞きつけ、激戦の抽選を勝ち抜いて、大好きなヒーラー職があるこちらの国を選んだわけだけども。
一枠だけ、「神官長」の称号が取れる仕様だって気付いて。
そんなの最高じゃない!と躍起になって“洗礼花(イセミナ)”を育てていたら、特殊クエストが発生した、という次第。
あぁ、ちなみに、“洗礼花(イセミナ)”っていうのは秩序国(コスモス)に所属すればみんなもらえるアーティファクトのこと。秩序国(コスモス)は“花の国”だから。その人に合った花が最初に祝福をもたらしてくれる、まぁ、つまり魔法が使えるようになる仕様なの。素敵よね。
私の場合はスノードロップだったんだけど。それがまたとても綺麗で。
散々いじくり回していたらこの結果になって今に至る、というわけ。
他にも数人、カサブランカ様から特殊称号を得た者が居て、みんな今では“騎士団”で要職に就いているんだけど、その中でも私は特殊。



おっ、レッドネームじゃねぇか。……って、おまえ、まさか……っ!?



あらあら。こんにちは。……貴方も、お名前が“赤”、ですね?



か、勘弁してくれ!今日はデスペナ食らいたくないんだ…っ!
今、私は、現在敵国保有エリアとなっている南領、フォーマルハウトのとある平原に立っている。そして、敵国所属のプレイヤーと遭遇した、というわけなんだけれども…。



……どうして、逃げるのぉ?
せっかく気さくに“赤き同志”が話しかけてくれたと思って喜んだのも束の間、彼は私を私だと認識するなり、一目散に逃走し始めた次第である。



く、来るなぁぁぁ!
さすがに“シストマキャヴェリ”の相手なんかしてられっか!!
とりあえず追いかけ始めた私に、彼は全力疾走しながら大声でそう叫んでいる。



……だから何ですの、その呼び方。
どうやら私は敵国では“シストマキャヴェリ”と呼ばれているらしい。
マキャヴェリといえば、たしか過激な君主論を唱えた昔の政治思想家だったはず。
シスト……は、植物の嚢胞のことだったかしら。それとも、シスターの略なのかしら?
どちらにせよ、花だらけ、ヒーラーだらけの秩序国(コスモス)の特性とかけてあるのは明白で。
まぁ、随分と凝った素敵なお名前を頂いたことについては、とても光栄なのですけれども……。



私の名前は、“サ・ム・サ・ラ”ですー!!!
こちらもそう、全力で叫び返して、それから自身の天球儀……あぁ、つまりヒーラー用の武器なのですけれど、それに附属した大錘の繋がったチェーンを、私は彼に向かって勢いよくぶん投げる。



ぎゃぁぁぁぁぁ。
難なく捕縛が完了する。
さすがに初撃は回避されるかと思ったんだけど。まぁ、それは、いい。
さぁ、あとは……



そちらのお下品な“陛下”に殉ずるその覚悟、しかと受け取りました。
“赤ネーム”同士、殺し合いを、存分に楽しみましょう……っ!



俺はそんな高尚な思想は持ってねぇぇぇぇぇぇ!!
そう、私は“秩序”を重んずる自国、コスモスの中で、唯一、人を殺す権利を持っている。
我が国の女王、カサブランカからの特殊クエストをクリアした“神官長”だからだ。



そちらの国ではそもそも“停戦期”のPKが犯罪にならないのでしょう?
こればっかりは敵国女王ながらあっぱれ!
合理的で素敵な考えだと思います!素晴らしい!
“撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。”
どこかのアニメで聞いたこの言葉、何とも言い得て妙である。
引きずり戻されて以降、何とか応戦しながらなぜか苦い顔をしている先方に、私は続けてにこにこしながら話しかける。



人を殺した、と、その“赤”を以て示してくださる方、私、大好きですの。
我が国の民の“血”の味はいかがでした?



はぁぁぁぁ?!話には聞いてたけど、マジでイカれてんなおまえ!
俺が殺したのは、自国の雑魚!だっつの!!
わざわざ“停戦期”にデスペナ食らう危険冒して敵国の占領エリアまで出向くアホなんかおまえと、“ブラッドサースト”くらいだよ!!
しかも、おまえに至ってはカサブランカの犬だろっ!?
これゲームだぞ!!仕事じゃねぇんだから……っ!!



あらあら?ヴィーナさんのことですか?彼女はそちらの陛下……、“ゴッドマザー”さんに忠誠を誓ってるんじゃないんです?



んなわけあるか!?あいつはただ殺したいだけのイカれたPK野郎だ!!



……まぁ。それは聞き捨てならないですね…?
今度会ったら懲らしめてさしあげないと…。
それで?その言い分だと、貴方も大義の為の“レッド”ではない、と…?



ったりめぇだろ!?
さっきダンジョンで喧嘩になったからむかついて殺しただけだよ!!



……。自国の味方に手を出すだなんて…。
残念ですけど、貴方とは、お友達になれそうにありません…。
彼の話に、私は思わず顔をしかめる。



さようなら。



ちょ、マジ、待った!!悪かったって!!
この戦利品貴重なんだ!!見逃してくr※☆✖○!あぇkrj!?
最後の方はもはや何を言っているのか聞き取れない断末魔と共に、ここまで存在していたはずの“彼”が、青い電子の光を放って消失したのを確認すると、私は地面に寂しく残った“戦利品”に手を翳す。



回収回収、っと。あらあら…。これは…“仮初宝(ペルソナ)”かしら。
我が国のアーティファクト、“洗礼花(イセミナ)”と対を為す、敵国ケイオスの秘宝、“仮初宝(ペルソナ)”。
おそらく彼が“喧嘩して殺した人”の物なのだろう。



これがないとあちらでも上位スキルが使えないでしょうに…。
味方のものを奪うだなんて、何とまぁ、非効率な…。
呆れて物も言えない。私はそんな複雑な想いを抱えながら落ちていた戦利品を拾って、この南領の快晴の空へとかざしてみる。



綺麗…。“タンザナイト”……かしら?
思わぬ自国貢献をした、と、私はすっかり上機嫌な面持ちを浮かべて、それから自国の方角へとUターンするのであった。
騎士団 魔法攻撃隊 隊長 RUBIA(ルビア)の場合……



さ・む・さ・らぁぁぁぁあぁ!!!



な、何事ですか…? ルビアさん…。



何もクソもないですわ、緊急よ!!サムサラはどこに!



サムサラ様なら、いつもの“お散歩”に……



はぁぁぁぁあ!?またぁぁぁぁ!?
どれだけPKKしたいのかしらあの腐れ聖女は!?



私に言われましても……。また“ネリネ”ですか?



そうに!!決まってるでしょう!!!!
このわたくしが!!あの問題児以外に遅れを取ると思って!?



イエ。本当に、お疲れ様です…。



はぁ…。
私は今、この秩序国(コスモス)が誇る静謐な大神殿で、憤り露わに大声をあげていた。
普段、ここまで怒ることなど滅多にないのに。
事の発端はこのゲームでL.A.N.フレのライザが騎士団長に就任したことから始まった。
厳しい抽選があった超レアもののゲームログイン権を手に入れて、迷ったものの久々にオンラインゲームに手を染めた私は、「自国を強化したい!」という彼女にほいほい乗せられて、気付けば廃人プレイまっしぐら。ロンチから半年が経過した今では騎士団魔法攻撃隊の隊長にまでのし上がってしまった、というわけだ。
このゲーム、常に高難易度を誇るミカナギ製というだけあって、何と“クリア条件そのもの”が不明なのだが、開発者からのヒントとして唯一発表された「女王の望みを叶えよ」の文言を考えれば、まぁ、おのずと試みるべきは決まってくるというものだ。
そんなわけで、現在では共通見解となっている“全領土占領”を実現すべく、友人の団長ライザはこの騎士団の指揮を執り始め、定期的に開催される“公式大規模PK戦”での攻防連携を強化することにこの半年、余念が無い。
こうした流れの中で、彼女は数多の“規則”をこの秩序国(コスモス)の民に敷いたわけで、大半のプレイヤー達はそれに同意したわけなのだが、残念ながらこれはゲームだ。
当然、非協力的なプレイヤーもまだまだいる、という次第である。
“混沌”の名を冠する敵国とは違って、ゲーム開始時にこちら、つまり“秩序”を選択するような人間の集まりだから、そもそも非協力的、といってもその大半はいわゆる“ライトプレイヤー”で、ライザの方針に真っ向から意を唱える人はほとんど居ないのだが、何せ“ライト”なだけに、彼女達は戦闘自体を好まない。
ゲームのシステムが豊富すぎて生活系要素も充実しているだけに、そちらばかり楽しんでいるプレイヤーも多く、“戦闘スキルやレベルが低い”者達が、かの大規模PK戦にだけはおろおろしながら顔を出してくる、というのが、この秩序国(コスモス)の特徴だ。
なぜそんな彼女達が大規模イベント戦にのみ参加しようとするかといえば、その理由はただ一つ。イベント時以外はちょっとやそっとじゃ立ち入ることのできない中央戦闘地帯、通称“ザラスシュトラ”や、そこを超えた先にある“敵陣”に入りたい理由があるからだ。
まぁ、要は、武器や防具を作る為の素材が美味しい上に、イベント戦時は問答無用で名だたる廃人達が弱きを守ってくれるもの、と味を占めているのだろう。
敵陣に味方がキルされればされるほど勝率が下がるのだから当たり前ではあるが、守らなければならないこちらからすると、迷惑以外の何者でもない。
よってこの国での敵前逃亡は重罪とされ、“自戒の牢獄”がフル活用されて今に至る。
私のせいで“牢獄の番人”と化した“某幼女”には申し訳ない限りだが、彼女は非常に適任で、かの檻で根気強く“ライトプレイヤー”とも語り合い、この騎士団への取り込みに日々成果を上げてくれている。
それとは別に、私や、団長ライザ、そして副長カナンといった“強者”からは、手厚いプレイヤースキルやレベル上げへのサポート体制も敷かれて、私達はなんだかんだと仲良く、徐々に国力を上げている。かなり、うまく、行っていたはずだったのだ。
だが、しかし!である。
そこに登場したのが、“ネリネ”。そう、秩序一の問題児である。
彼女はロンチ当初からそれはもう、変わった女の子だった。
皆、口を揃えてこう言う。
「なぜ、秩序に…?」
本当にこの一言に尽きる。
あれに比べればライトプレイヤーの“他人任せな気質”など可愛いものだ。



ヒーラーなのに…。味方を見捨てて攻撃に回るだなんて…。
深い溜息をついてから、呆れたように愚痴を吐く私を前に、神殿に突如怒鳴り込まれて苦笑いしていた男性神官がさらに火に油を注ぐ一言を贈る。



ヒーラーは火力。でしたっけ。



ライトプレイヤーに向かって、
“あんたちょっと寝てて!雑魚すぎ!”だそうでしてよ。
何をほざいているのかしら…本当にあの“ネリネ”とかいうおバカは。



ま、まぁ……何度も死なれれば気持ちはわからなくはないですけど…。
ライトな方も頑張っているのですから、可哀想、ではありますよね。



ほんとにその一言に尽きますわ。演習、という言葉の意味を知らないのかしら。



でも、ネリネさんすごいですよね~。
起こすべきタイミングでは必ず全員生きてるじゃないですか。
僕、実はちょっとファンで……



あら?聞こえませんでしたわ???
もう一度仰っていただけるかしら???



スミマセン、ナンデモアリマセン。



ふん、これだから男は。もういいですわ。
サムサラが戻ってきたらお伝えくださいます?
牢獄行き決定のネリネがまた行方不明よ、手伝いなさい、と。



承~知しました!必ず伝達いたします!!!
自身の失言に冷や汗をかきながら敬礼し始めた彼に、氷のような冷たい一瞥をくれて、私は大神殿を後にする。



はぁ…。あら、ちょうどいいところに“リコ”から連絡が…。
そうね、気晴らしにレベル上げにでも行こうかしら…。
彼女の受難はこれからも続いていく。
騎士団 魔法防御隊 隊員 RICO(リコ)の場合……



え~、すごぉ~ぃ❤ かっこいい~❤



お、りこちゃん、わかってくれる!? このかっこよさ!



北領のテルミナの森のレアドロップでしょ~? いいな~♪
リコ、実はあそこの他のやつがほしくて~



お、何がほしいの?一緒に取りにいってあげようか?!



え、ほんとぉ~?守ってくれるの~?



当たり前じゃん!
りこちゃんの為ならドロップ品も全部譲るし!



え~、さすが騎士団期待のナイトさま~♪ リコ、嬉しい~♪



何をなさっているんですの…。



あ、ルビアさん!いいところに!
今、リコちゃんとテルミナの森に狩りに、って話をしてて!
ルビアさんもよかったらご一緒にどうです!?



残念ですけれど、わたくし一人で間に合っておりますわ…。
ほら、行きますわよ。早くしてくださいまし。



ごめんねぇ、今日はルビアちゃんと約束してるの~。
明日行きたいな。できれば、ふ・た・り・で❤



お、おっけー!!!じゃあまた明日声掛けるね!!



わーぃ❤ じゃあ、また明日ね~♪



……。
私はリコ!魔法防御隊に所属しているゴーレム使いで、この秩序国(コスモス)のアイドルよ!
今日は大好きなルビアちゃんと一緒にレベル上げ♪キャピっ。
……という全身全霊の愛想を、この首都随一の料理屋で振るまいて、昼飯に集まっていた男性騎士達に手を振るその姿を、昔馴染みの友人に冷ややかな目で見られながら、“俺”はその場を後にする。



毎度毎度…。貴方の辞書に『飽きる』という単語はないのかしら…。



わはは!今日も貢ぎ物、大漁大漁!
これ以外にMMOで楽しめることなんか、あってたまるかっての!



そんなんだからそのちんちくりんなゴーレムばかりが強くなって、
自分のレベルが上がらないのではなくって…?



いや、だってさぁ。
ルビアみたいなド派手な攻撃かましたら男共が寄ってこなくなっちゃうじゃん?
わかる?男とはか弱い女性を守りたい、どうしようもない生き物なわけよ。
そういうとこ、気をつけないと~、モテナイよ?るびあちゃん?



放っておいてちょうだい!!
そんな鼻の下伸ばした気持ち悪い人達、寄ってこなくて結構ですわ!!
そう、何を隠そう、俺は“ネカマ”のプロだ。
このルビアという女性は、昔からのゲーム友達で、ひょんなことから身バレしたのはもういつのことだっただろうか。どうにもツンデレなところがあり、きつい性格だと思われがちだが、ばれた後もなんだかんだと文句を言いながら黙っていてくれる非常にイイやつである。
しかも、強い。本当に、非常に、助かる。
あぁ、ちなみに彼女がどこぞの悪役令嬢のような口調なのは身バレする以前からであるからして、決してリアルでもお嬢様、というわけではない。
なんだかんだと気が合うのは当然の摂理……というか……類友、というか……。
まぁ、こんなことを言ったら俺が殺されてしまう。
何を言うかが知性、何を言わないかが品性。これについては俺は後者を選択する。



ほ~んとL.A.N.ってのは厄介だよな~。
みんな“あっち”での繋がり求めてくるんだもん。
このゲームのログインポータル、池袋13番じゃん。
待ち伏せしてるやつとか居てさ~。



現実鏡像世界、実に便利でわたくしは素晴らしいと思いますわ。
そんなことで困るなら、それは貴方の遊び方が悪くってよ。
いい加減反省なさいな…。



ひぇ~、手厳しい~。
ま、ばれたところで気にしないんだけどな!わはは!



はぁ…。どうしてわたくしの周りはこう次から次へと……問題児ばかり……。
呆れた様子で頭を抱えるルビアを見て、俺は状況を察する。



あぁ、また“ネリネ”ちゃん?さっき連絡した時、ごたついてたみたいだけど。



それ以外にわたくしが悩む要素がありまして……?



わはは!サムサラさん捕まらなかったのか。
なら仕方ないって!あの子はサムサラさん以外じゃ無理だよ!



くっ…。絶対いつか吠え面かかせてやりますわ……!
ほら、行きますわよ!!貴方が誘ったんでしょう!!
ちょっとは強くなって手伝ってくださいまし!!



いやぁ、俺じゃ無理だって。
あんな化け物みたいな全方位戦闘狂、手に負えないよ。
な~、ハナナシ~♪おまえも消し炭になりたくないよな~?♪



にゅっ。(※はい。絶対嫌です。の意。)



はぁ…。ほんと何なんですの、そのふざけた顔した葉っぱ…。



にゅ!!にゅにゅにゅっ!?(※し、失礼な!?の意。)



いやぁ、育ってくると案外可愛いだろ~?
最初このゲーム始めた時はハズレ枠だって言われてるコイツ
引き当ててどうなることかと思ったけどな~。
おかげさまで不吉な印象ついちまって、
このアイドルポジションを築き上げるのにも随分時間がかかったもんよ。
そう、残念ながら俺の“洗礼花(イセミナ)”はハズレだった。
彼岸花、何とも不吉な花からの思わぬ祝福に、神殿がだいぶ盛大にざわついたのを覚えている。何でだろう。性別、嘘ついてるからか…?手厳しいぜ、ミカナギさん。



まぁ…、そうでなくても、このゲームじゃ貴方……、
そのハリボテのアイドル性、全然隠しきれてなくってよ?
随分とまぁ、珍しいこと。



わはは~!やっちまったよな~!
ただ、あれは仕方ないだろ!混沌の大怪鳥!!
俺の中の男の子の血が騒いじまった!おかげさまでいいヒントをもらったよ。



まさかヒメチャン十数年極めてきた貴方が、
ゴーレム合体大怪獣バトルを繰り広げることになるなんて…。
人生って何が起こるかわかりませんわね…。
おかげさまでわたくしまで巻き込まれてしまいましたわ…。
そう、これは公式大規模PK戦での事故である。
自分で言うのもなんだが、俺は、弱い。
なのでルビアに守ってもらいながらイベント戦に参加していたわけだが、敵国にはどうやら“大怪鳥”を操る奇特なプレイヤーが居るようなのだ。
空を悠々と舞う、まるで機械と生物が融合したかのような特大サイズの大怪鳥を見た時、俺の中の男の子の血が騒いでしまい、結果的に防御スキルの発動を忘れた。
魔防職なのに、情けない。
この彼岸花のチビゴーレム、ハナナシと共に万事休す、かと思ったが、すんでのところでルビアがその怪鳥へお得意の雷撃を放ってくれたおかげで、俺は何とかその時のイベント戦で最後まで立って生き残って、どうしても欲しかった“ノーダメージクリア”用の報酬にありつくことができたのだ。
だが、それ以降、あちら様にルビアがロックオンされてしまった、というわけで……
ならば、やるしかない!大怪獣バトルを!!
……珍しくも“男の子”らしい、そこはかとない悔しさを感じてしまった俺は、「今度こそ!」とそんな想いを胸に、ルビアの盾となるべく自身の戦力強化に精を出し始め、そうして手持ちのゴーレム達を合体させた大型ゴーレム「スカンダ:ヴァジュラ」召喚の大技を編み出すに至り、最近では念願叶ってあちら様から二人揃ってロックオン。
以降は三人仲良く、ド派手に大規模イベント戦を楽しんでいる。
あまり可愛い、とはいえない光景ではあるのでヒメチャンプレイに多少支障は出たものの、イベント戦専用の特殊スキル、ということにして、何とか未だに“か弱さ”を保っている。



しかし、珍しいですわね?貴方が狩りに行こうだなんて。



いやぁ、実はさぁ。ゴーレムの強化素材が、ね?



……。はぁ。今から行く場所、高難易度ダンジョンですけれども?
全部、譲れ、と?



頼むよ!今度リアルで飯奢るから!



……仕方ありませんわね。その代わり、ちゃんと強化してわたくしがあの面倒くさい大怪鳥を再起不能にするその日まで!!
しっかり守ってくださいましね!!



任せとけ!!俺は弱いけど、俺のゴーレム達はなかなかにタフだ!!



それは、自信満々で言うことじゃなくってよ……。
さぁ、今日もゴーレム強化の旅が始まる!楽しみだ!
騎士団 副長 CANAAN(カナン)、
そしてエンジョイ勢、VERONICA(ヴェロニカ)の場合……



うぇぇぇぇぇぇ~~~ん!(泣)



もう…泣いてたって仕方ないでしょう…?ほら…。
この秩序国(コスモス)で現在、副長を務めるカナンは非常に困っていた。
ロンチ後すぐにこのゲームで出逢い、今では気の合う友人となったこの騎士団の団長、ライザが掲げる「全領土占領計画」に基づき、自国のプレイヤー達の成長サポートに明け暮れるようになってから、もう数ヶ月。
最初はどうなることかと思ったが、姿から声まで全てが可愛い、魔攻隊の副隊長、リエが、非常に素敵な成果を上げ続けてくれている現状、ライトプレイヤーの騎士団志願者が急増したのがここ最近の出来事だ。
今、私の目の前で大泣きしているこの女の子も、「いずれは狩りに出れるようになりたい!」と、前向きに戦闘訓練を受けに来てくれたわけなのだが……。



ほんと、“ネリネ”ったら…。もう少し言葉を選べないものかしら…。



私、ずっとお荷物で……。ぐすっ。
最後の最後に、起こしてもらって…。せめてこれだけでもって……
譲ろうとしたんですけど……結局、報酬だけ……もらっちゃった…。
自分が…情けないです…。うぇぇぇぇぇぇん。(泣)
—— 顛末はこうである。



はぁぁぁ!? こんなしょっぼいの相手に何回死ねば気が済むのよぉぉぉ!?



も~~~~~無理!!付き合いきれない!!
ごめんだけど!ちょっと寝てて!!あんた、雑魚すぎ!!



す……すみません~~~!!(泣)



よし!!これで一気にレベル上がったでしょ!!
ヴェロニカだっけ?あんた、魔防職?
だったらこれでもうちょっとその紙装甲どうにかしなさいよね!!



……あ、あの……さすがに受け取れません……。
こんな高価なクリア報酬……。私、本当に、寝てただけだ……し…。



もう!!!要らないわよ!!そんなクソしょっぼい報酬!!
いいからそれ使ってさっさとその戦闘スキルの低さ、どうにかしなさいよ!!
そんなんじゃ大規模戦でも一瞬で消し炭になるわよ!!いい!?わかった!?



ひっ…。
—— 以上が、事の次第である。



はぁ…。やってることは……
かなり立派な初心者支援……のはず、なんだけど……。
言い方……。と、カナンは心の中で盛大に溜息をついていた。



やっぱり、私が皆さんと遊びたい……なんて、無理でしょうか……!?
弱いのに……!本当に、ごめんなさい~~~~(泣)!!!



最初は誰でも弱いから…。ね?
“ネリネ”はいつもあの調子なだけで、悪気はないのよ?
だから、そんなに落ち込まないで?



今後、“いじめられたり”しないでしょうか…!?
だいぶ盛大に、怒られてしまいました……。



あの子はそんなことはしないわ。現にほら、報酬、譲ってくれたでしょ?
大丈夫よ、きっとそれ使って強くなれば、今度会った時には喜んでくれるわ。
……そういう子なのよ。わかってあげて。



喜んで……くれる……?本当に……?仲良く、なれる……?



えぇ。大丈夫よ。それまでは私がサポートするわ。
最初からネリネに任せたのは私のミスね。
つらい思いさせてごめんなさいね。



ありがとうございます、カナンお姉様……!
わ、私、皆さんと仲良くなれるように、頑張ります……!



あはは……。お、お姉さま…。
自分のペースでいいのよ。無理しないでね。
ほら、せっかく初めてのレア報酬なんだから。
装備強化、行っておいで?ここからが楽しいんだから!



はい……!
何とか笑ってくれた“戦闘初心者”が天井高く、よく音の響く訓練場を後にするのを見送ってほっと一息ついていたところに、聞き慣れた“可愛い”声が木霊する。



終わりました~?



いたの?なら、出てきてよ、リエちゃん…。



何言ってるんですか、ここからは私じゃ逆効果ですよ。
副長と違って、飴で懐柔するのは苦手なんです。すぐ泣くんだから…。
正直入団なんて無理かと思ってたけど、懐く人には懐くんですね。さすがです。
だいぶ棘がある。本当に苦手なのだろう。カナンは思わず苦笑いを浮かべていた。
この幼女、姿や声は非常に可愛らしいのだが、残念ながら“牢獄の番人”だ。
ネリネとは違う意味で怖いことで有名で、これまでだいぶ“ライト”な遊び方をしていた名残で騎士団の規則違反を犯して数時間だけ自戒の牢獄に収監されてしまったヴェロニカにさんざん死んだ魚のような目できつ~いお説教をして、そのまま「“頑張る”の言質を取った」と言わんばかりに彼女をここに送り込んできたわけで、騎士団上層部の間では“闇ロリ委員長”“違反者拷問班”などというあだ名がついていたりするくせ者である。



志願理由、お友達が欲しい、だったっけ?
なんだか思い詰めた様子だったから、助けになれるといいのだけれど。



優しいですよね、副長って。何があったかは知りませんが、
今回は私はネリネさんを支持しますのであとは副長と団長にお任せします。
騎士団でお友達が欲しいなら、皆に迷惑をかけないようにならないと。
泣いたら許される。そういう子とは仲良くしたいと思いませんね。



えぇ?意外~。リエちゃんがネリネを支持するなんて珍しい。
あれは私でも泣くわよ~。ほんと規則違反の神め……。
だから、ね?そんな避けないであげて~。ほら!子供同士、仲良く…!



残念でした。見た目は子供、頭脳は大人、ですから~。
ネリネさんは最善の策を取っただけですので、今回は仕方なく見逃してあげます。
彼女がいなかったら、全滅でしたよ。あの子のせいで。



あはは…。まぁ、あまり大きな声では言えないけれど、
実際、ほんと、あの手の判断、戦場だと必要だったりはするのよね。



でしょう?
この幼女は見た目にそぐわず、本当に現実的だ。
そんなふうに思ってさらに苦笑いを浮かべていた私だったが、ここまでどこか不満げだった彼女が、急に何かを思い出したかのように平常時の顔に戻る。



あ、ところで副長。この後空いてますか?



ん?そうね、ライザがもうすぐログインしてくるだろうから、
そうしたら手が空くわ。



やった。狩り、いきましょ!フィーちゃんが困ってるみたいで。
前衛居ないとつらいダンジョンに行きたいみたいです。



あら、例の“装飾品”用の素材集め、かしら?



そうみたいです。フィーちゃん強くなってくれたら私達も助かるし、お手伝い、どうかなーって思って。



いいわね。乗るわ。久々に暴れたかったし!



ふふ、出ましたね、脳筋思考。じゃあ、頼りにさせてもらいま~す。
最近はすっかり“騎士団のお姉さま”が板についてしまったが、実は元々は大暴れが大好きな剣士だったりするカナンが指を鳴らして、やる気を示している。
非常に妖艶な雰囲気の美人でスタイルもいい為、男性人気も半端ないのだが、だいたいは戦場で彼女と一度PTを組むとその強さに心を折られて、いそいそと撤退していくらしい。
リエはというと、毎回そんな男性プレイヤーを見ては、根性ないなぁ、とひそかに呆れるのであった。
騎士団 回復隊 隊員 OPHELIA(オフィーリア)の場合……



し、死ぬかと思いました……!!
人の役に立ちたい。それが私の騎士団志願の理由だった。
ロンチ後すぐにライザさんが統率を執り始めて、その姿に感動した私は、初期にちょっとしたPTで一緒になったリエちゃんに頼み込んで、すぐに回復隊の一員として迎え入れてもらったのだ。
どんなゲームでもヒーラーを選ぶ私、なぜだか支援だけは得意なのだが、どうにも毎度、攻撃スキルが使いこなせず、ソロ戦をすると散々な結果に終わってしまう。
いわゆる火力が出せないヒーラーだったが、PT戦では「女神様」などと呼ばれて重宝されることが多かったので、少しは役に立てるかと思い上がっていたことを、今はとても反省している。
騎士団に入って以降、同職の仲間達、サムサラ様やネリネ嬢の圧倒的な強さを前に「こ、これではだめね…!」と冷や汗をかいて、まずは装備を強化しようといろいろ情報を調べていたところ、運命を感じる装飾品に出逢ってしまったのだ。



え、エルフ耳~~!!!
なんと存在したのである。私の大好きなエルフ族の耳っぽい防具が。
だが、このアクセサリ、サブ職として遊べる製作スキルをかなり高いレベルまで育てた奇特な“職人”勢への依頼が必要になる。
依頼費だけでもかなり高額。さらに、その素材は自力で集めなければならない。
ではまずは素材を……とさらに調べてみたら、その素材の詳細は、高難易度ダンジョンレアドロップの嵐……という次第で、冒頭の流れに戻るわけだ。
誰かの役に立ちたいものの、誰かに助けてもらうのは忍びない……という、何とも厄介な性格なので、こっそりレベル上げを頑張ってから1人で一番簡単そうな該当ダンジョンに足を運んでみたものの、お目当てのボスに辿り着く前に通常エネミーに殺されそうになってしまって、慌てて緊急脱出アイテムを使って事なきを得たところだ。



ど、どうしましょう…。これは、困りました…。



……フィーちゃん?
そんなダンジョンの前で途方に暮れていたところで、後ろから可愛らしい声が聞こえて、私は慌てて振り返る。



わ、わぁぁあぁ!?び、びっくりしました……!



え、傷付く…。私、モンスターと間違えられた…?



ち、違います違います!
さっきまでそこのダンジョンで気味悪いモンスターに追われてたので、
その、つ、つい…。



え。まさか、フィーちゃん…。
例の素材、もしかして一人で集めるつもりですか?
そこのダンジョン、ヒーラー単体だと危険ですよ?



そ、そうだったんですね…。
攻略情報を調べたら行けるって書いてあったからつ、つい…。



あぁ…。まぁ、ネリネさんかサムサラさんなら……。



や、やっぱり攻撃スキル、あれくらい使いこなせないと無理です、よね…。
もっと頑張らなきゃダメかぁ。



もう~。どうして一人で攻略する前提なんですか。手伝いますよ?
……とはいえ、私も詠唱職なのでもう一人前衛を呼びましょうか。



い、いいんですか…?そんな、私の装備強化に付き合わせてしまって。



フィーちゃんが強くなってくれたら、私達も皆、イベント戦で助かりますから。
今度からはきっちり相談してくださいね。
……よし。副長が適任かな。誘ってみますね。
テキパキと話を進め始めた彼女が、フレンドリストを見ながら現在オンラインモードのプレイヤーの中から一人選んで、早々に転移を開始しようとしたのを見て…



え、えぇぇぇぇ。そ、そんな副長を巻き込むなんて……
も、申し訳ないです……。
私は彼女が選んだ相手がまさかの騎士団副長であることに冷や汗をかきはじめる。



大丈夫、むしろ喜ぶと思いますよ?
フィーちゃん知らないかもしれないんだけど、副長、今でこそライト勢の指南役みたいになっちゃってますけど、ロンチ直後はライザさんと一緒にこの手のダンジョン巡って大暴れしてた人だから。
……だから、副長なわけだし。



そ、そうなんですね…!?い、意外…。



あはは、わかります。見た目だけはお淑やかですしね。
それでは私は一度本部に戻ります。
副長捕まり次第連絡入れるので、安全な場所で待機しててください。



あ、ありがとうございます!
さらっと結構失礼なことを言いながら上位スキルの転移魔法で颯爽と消えていく幼女を見送って再びダンジョン前で一人になった私は、手伝ってくれるという仲間に感謝の祈りを捧げると自分もちゃんと準備をしようと、首都へ向かって歩き出すのだった。
彼女の装備強化や、いかに。
ヒーラー(無所属) NIEVE(ニエベ)の場合……



う、う~~~~ん…。
私は困っていた。
地元の大学に何とか日々通ってはいるものの、身体が弱く、あまり人の輪に溶け込めないままいつも寂しい思いをしていた私は、同じ学部の元気な学生達が盛り上がっていた、とある話に釘付けになってしまった。
“L.A.N.”―― 現在試用稼働段階の現実鏡像VRワールドのことだが、そんな中に架空世界で遊べる“ゲーム”が存在する、というのだ。
ちょうど1人で楽しんでいたスマホゲーのサービスが終了してしまい、次のゲームを探していた私にとって、彼らの話は朗報だった。
これなら身体が弱くても、外に出なくて済むし、もしかしたら友達もできるかもしれない。
そうして調べてみた“ミカナギ製の新作”とやらの世界観に心奪われた私は、ドキドキしながら応募してみて、そして見事に抽選に受かって小躍りしながら初の次世代MMOに手を染めてみたのだった。
が……。



どう、話しかけていいのか……わ、わからない…。
誤算だった。このゲームは大人気のミカナギ製、しかも定員有りの特殊実装。
そんなゲームに自分のような初心者がそんなにたくさん、いるはずがなかったのだ。
みんな、当たり前のようにMMOで流通しているであろう専門用語を使うし、プレイヤースキルも最初から高い。完全に場違い、そう思って気が引けてしまったのが半年前。
それ以降、なんだかんだとハマってしまってログインだけは続けていたが、結局いつも人に話しかけるタイミングを逃して1人で遊んでしまう、秩序国(コスモス)では特に少数派といわれるソロプレイヤーと化してしまっていた。



騎士団……かぁ。
“志願者募集!”
“洗礼花(イセミナ)”の強化の為に大神殿の方にはよく足を運ぶものの、そのすぐ近くにある騎士団本部の電灯広告を眺めては行ってみようか迷った末に勇気が出ずに、初期に手に入れた“自宅”へ帰ってくる。そんな日々が続いていた。



ま、いっか。そんなことより……
考えるのが面倒になり、途中で思考放棄して、私は地図へと目を向ける。
結局ソロプレイになってしまっているので、家のリフォーム素材のレアドロップ場所や、ペット育成のサブシステムにだけは異様に詳しくなってしまっていて。
多分遊び方を間違っている気がするけれど、元々スマホゲーが大好きだったこともあり、コツコツと日課をこなすのは大好きだから、半年経った今では実は結構な危険地帯までソロでも足を伸ばせるようになっていた。



でも……さすがにこれは……
目を付けたのは自国エリアの北端、永久凍土、ジール・ウェントス。
何と私の大好きなユキウサギが居るらしく、しかもペットとしてのテイムが可能らしいのだが、かなりのレアもののようなのだ。
手前には聖森ドヴァリンソスも控えており、明らかにPT戦闘が前提の高難易度エリアに指定されている。



1回……行けるところまで行ってみよっか…な…?
半年もいろいろ強化してきたんだし、一度くらい挑戦してみてもいいかもしれない。
普段はかなり慎重派な私だったが、ユキウサギには絶対に会いたい。
そんな強い想いを胸に、いそいそと旅支度を始めるのであった。
ヒーラー(無所属) サン(SUN YOUKA)の場合……
私は、小さい頃からずっと不自由な生活を強いられてきた。
優秀な姉の支えとなる為にずっと親に生活を管理されてきたからだ。
でも、その生活は突如終わりを告げる。
姉本人が私の支えを不要と判断したからだ。
「今までごめんね。貴方がそんな窮屈な想いをしていたなんて、知らなかったの。」
そうして、私は自由になった。
でも、ずっと指示されたことだけやってきたから、今更何をしていいのかわからない。
姉は私を気遣ってくれたはずなのに、なんだか、ぽっかりと心に穴が空いた気分だった。
そうして途方に暮れていたある日、転機は1人の青年によってもたらされる。
現実鏡像世界、L.A.N.の中に気まぐれに実装される“架空世界”。
「その中でなら違う自分になれる」と彼はたしかに言ったのだ。
私は応募を決めて、そして見事に激戦の抽選を通過した。
あれから半年。



素材が……欲しい……!
キャラクリだけでいったい何ヶ月かかったんだろう。
ロビーサーバーにログインするだけで、全然ゲームの世界に踏み込まないまま数ヶ月。
その後ようやく理想のキャラクターができたので、初めての架空世界に接続を試みた私は、その世界観に一気に心奪われて、それからはずっとソロプレイを続けている。
協力プレイがこのゲームの醍醐味らしくて、首都に行けば騎士団とかもあるらしいけど、そんなことよりやりたいことが目の前にたくさんある。
ゲームなんて初めてだから、死に戻ってばっかりだけど、それすら私は楽しかった。
その中でも特に楽しいのが、“作る”システムだ。
該当する素材を集めれば可愛い装備や綺麗な装飾品がたくさん作れる。
とりあえず集められる素材を片っ端から集める旅をしてみたが、そんな生活ももう数ヶ月。
自分で集められる物は粗方作り終わってしまって、未知の領域に踏み込まないと素材が手に入らなくなってきたのだ。



えーっと、これを作るには~……えぇ……ドラゴン……?無理じゃん。絶対。
さすがに私でも知っている。空想上最強格の生物の名前が、素材の欄に見えていた。



うーんと……ドラゴン。ここか!ま、死んだらその時はその時!
行ってみよう~!
明らかに無謀であるが、本人は気付いていない。
そうして比較的安全な自分の拠点、初期リスポーンエリア、虹の遊庭ラプラス・イリゼのどこを見ても美しすぎる花畑から初めて脱出したサンは、この後、初めての“恐怖”を味わうことになるわけだが……。
▼



おぉ~!花、なくなった!緑だー!!
エリア名、空駆ける王の地、エヘカトル・ステップ。
初めて入ったエリアがマッピングされ、途端に光景が変わったことに感動していたのも束の間、さっきまで明るかった草原がいきなり暗くなって、サンは首を傾げる。



……ん?
違和感を感じ、上空を見上げるとそこには、明らかに自分の数十倍はあろうかという体躯の巨大な生き物が天高き空からこちらを見つめている。



……え、あ、いや……
今までも何回も死んだから、きっと大丈夫。そんな痛くなかったし。
私は、高を括っていた。
今までどこでも感じた事のない根源的な恐怖が自分の身体を支配する。
仮にも“神獣”の御前である。
普通のMMOプレイヤーなら“威圧”のデバフがあることを知っていて、下手にこのエリアに近づく者はなかなか居ない。
リスポーンするまでにさんざんな苦痛を味わう代表格。
それがこの秩序国(コスモス)の自陣エリア、ファータ・クーラの中央南にその生息域を有する不死鳥フェニックス、そのさらに南西端、山岳に棲まう、妖精王オベイロン、そして、サンが今足を踏み入れてしまったこの東端、空駆ける王、ドラゴン族、
……というわけだ。



…ご、ごめんなさい。い、今すぐ出て…いき…ますから……命だけは……
直感的に踏み入ってはいけないと悟ったサンはすぐさま退散しようとその足に力を込めるが、入らない。当たり前だ。最上級レベルの威圧デバフを受けている。
だが、そんなことにすら、少女はこの時気付けずにいた。
涙が溢れてくる。怖い。怖い。怖い怖い怖い……!!!!
そんな中、これまた強烈な咆哮をあげた赤き竜の壮絶な威圧感にとうとう耐えきれなくなってしまって、



きゃぁぁぁぁぁあぁ!!!
狂ったように悲壮な叫び声を上げてその場にうずくまってしまった少女に、とうとう空の王が火を吐いた。
絶体絶命。リスポーンだ。もう二度と来るもんか。
死の覚悟を決めたサンだったが、遅れて来るはずの痛みはいつまで経っても来ず、おそるおそる顔を上げたその瞳の中には、1人の凜々しき少女の後ろ姿が飛び込んできて、深く、深く、彼女の心に焼き付いた。
おそらく上位スキル、といわれる、攻略サイトでしか見たことのなかった明らかに神々しい何か、盾のような光を展開して、彼女は業火から私を守ってくれている。



ひ……人……?



はぁ????それ以外何に見えるのよ!!
ていうか、あんた馬鹿じゃないの!?
しかも、無所属だとぉぅ~~~?! 今時そんなこと、あるぅぅ~!?



貴女、大丈夫ですの!?お怪我は!?オフィーリア!回復を!



は、はい!!任せてください!!



お嬢ちゃん、マジかぁ……?
何でよりにもよってエンシェントドラゴン相手にそんな低レベルでつっこんだぁ……?



話はあとです!第二波、来ます。リコさん!
ネリネさんの代わりに防御壁、展開用意!



ひぃぃぃ……マジかよ~~~。
俺にはこいつは荷が重いってぇぇぇ~~!!(※思わず、ヒメチャン、素)



ライザ!ネリネ!まずは私が囮になって正面から切り込むわ!
貴方達は側面からトドメを!!



はぁぁぁあ~~~!!?
私に命令するなんて100年早いのよ!
第二波来る前にヤっちまえばいいんでしょしゃらくさぁぁ~~~い!!!!!



あ、ちょっと待て!!ネリネ!おま、ずるいぞ!!私にも寄越せ!?



ずるい、じゃなくて止めてくださいませ、団長!?



あ~ぁ。もうこれ、私達、要りませんね…?



あはは……さすがのネリネでも、騎士団全域広範囲ヒールの後の上位防護陣発動だったから、厳しいかと思って気を使ったんだけど……心配要らなかったわねぇ。
実に、やかましいことこの上ない。
さっきまであんなに怖かったはずの巨体が、私を助けてくれた長い桃髪を揺らす少女のありえないほど眩しい“光の一撃”によって地に堕ちた。
彼女の後を追いかけていった“団長”と呼ばれた短髪の女性が、ものすごい勢いで悔しがるその大声が、広い平原に木霊する。
状況についていけず、ポカーンとしてしまっていた私に、この場に残されて苦笑いを浮かべていたメンバーの中でもいち早く駆け寄ってその後ずっと傍についていてくれたお嬢様言葉の美人なお姉さんが再び声をかけてくれている。



貴女、初心者さん……かしら……?
まさかエンシェントドラゴンを虹の遊庭(ラプラス・イリゼ)のすぐ傍で刺激するなんて……
あぁ……騎士団が“威圧”の餌食に……



こんなこともあるのねぇ。今後の演習場、変更した方がいいかもね……?



おかげさまで……被害は甚大です。フィーちゃん、戻りましょう。
ネリネさんが初動対処をしてくれたとはいえ、みんなを落ち着かせないと。
もう……。敵前逃亡は重罪だって……あれほど言ったのに……。
何でここにいるの、私達だけなんですか…。



いや、あれはさすがに逃げるだろ…。(※思わず、ヒメチャン、素)



うっ、ごめんなさい……。私も、一瞬、逃げました…。



え……えっと、あの……
また会話が錯綜する。全然話に入っていけずにあたふたしはじめた少女の前に前方からゆっくりと歩いて戻ってきた長い桃髪の少女が、その会話を制する形で乱入する。



あんたたち、うるさいわよ。
さっきまであたふたしてたのは全員一緒でしょうが。
特に、ルビア。この雑魚がぁ!!奇襲に弱すぎんのよ!!



ぬぁぁあんですってぇぇぇ!?
何ほざいたって、貴女が一番重罪ですからね!?
帰ったら反省文ですわよ!!



はぁ?何で私が反省しなきゃなんないのよ。馬鹿なのあんた?



陣形を崩して勝手に突撃したからに決まってるでしょぉぉぉぉ!?
さっきまで優しそうに見えたお嬢様言葉のお姉さん、“ルビア”と呼ばれた綺麗な女性が激昂するのをにやにやとした表情で眺めながらひととおり煽りきると、桃髪の少女は続けて、ずっとおろおろしていた“初心者”の少女に向き直る。



で、そこのド初心者。これが欲しかったんでしょ。あげるわ。
どさっ、と大きな音を立てて、サンの目の前に大量の“素材”がばらまかれる。



えええええええええ!?



ええええええええええええええええ!?!?



えっ!?!?!?
後方へと戻ろうとしていた3人が驚きの声をあげて。



なによ…??
いぶかしげにその様子に首を傾げた桃髪の少女に、これまたいつのまにやら戻ってきていた“団長”がつっこんだ。



要らないなら、私達にくれよ…。
▼
この後、私は有無を言わさず騎士団へと連行されて。
そうしていきなりの独房入りを果たすのだけれど。
これはまた別の話。
魔法防御職(無所属) ENA(エナ)の場合……
名も無き森――。
私は“此処”をそう、呼んでいる。
秩序国(コスモス)のすぐ近くに、実は、小さな森がある。
だが、システム上、なぜだか特にエリア名称がついていない。



――Lavas Litas.
深く、白いフードを被った少女が“何も居ない”はずの空間に向かって声をかける。
果たしてこれは、何の言語だろうか……?
だが、彼女のその言葉に呼応するかのように、一瞬だけ電子的な蒼光がチラつき、そして一気に、森がざわめく。
木漏れ日の差す木々の新緑の間から、ひょこっ、ひょこっ、と、次から次へと白く、小さな生き物の顔が覗き始めたのを見て、少女はその頭を覆っていたフードを両手でゆっくりと取り払いながら、にこっと微笑み、“彼ら”と視線を合わせていた。
そう、彼らは、“シマエナガ”の大群である。リアルでも人気のある、あの白い鳥だ。
ちなみに私はグッズを集めている。
事の発端は半年前。
小さい頃からファンタジーRPGが大好きだったこの私、主立ったコンシューマーゲームはやり尽くし、更なる感動を求めて琴線に触れる新作を探していたところに、この「K or C」の情報が飛び込んできた、というわけだ。
知らない人とのコミュニケーションが苦手でオンラインゲームは避けていたのだけれど、仕事柄、試用稼働段階の現実鏡像VRワールド「L.A.N.」の方にはよくお世話になっていた為、リアルの延長線上のような感覚で、全く抵抗なく抽選に申し込んだ。
あの時は「L.A.N.にはこんな架空エリアもあるのか~。綺麗だなぁ。」くらいで、実はゲームとすら認識してなかったんだけど、「”エリア入場の抽選”に受かったみたい」と同僚に軽い気持ちで伝えたら、それはもうものすごい批難を浴びて、これがオンラインゲームで、そのログイン権がえげつないほどのレアものだということにようやく気付いたのだ。
そうと知っては、さすがにやらざるを得ない。
落選した同僚の無念を背負って、私は初の“次世代”オンラインゲームに手を染めた。
……のだが。結局、性格が変わるわけではない。
知らない人とのPTプレイなど、迷惑をかけたらどうしよう、そもそも何を話せばいいんだ!?
……の方が先に立って、オンラインゲームだというのに、当然のようにソロプレイを始めてしまった。あぁ、コミュ障、ここに極まれり。
これまでやってきた旧世代RPGの鉄則に則って、まずはマップを隅々まで表示させるか、と安全そうな自国近くを歩き回ってみたところでこの小さな森を見つけたのだが、草原から森へと風景が切り替わるというのに、エリア表示名は切り替わらず、その設定の粗さに、私は何とも言えぬ違和感を覚えたのだ。
本職がプログラマーなので……その……、どうにもこういう細かい所が気になってしまう。
しかも、落選に泣いた同僚の話だと、L.A.N.開発者まさにその人が、“彼”の世界の一端に、気まぐれとはいえ実装した人気ゲーム……なわけで……。
「業界でも鬼のワーカーホリックで有名なあの“彼”が……こんな適当な仕事をするか…?」とも思ってしまったわけで…。あぁ、これは完全に職業病だ。
そうして、大多数のプレイヤーが楽しんでいるであろう要素には目もくれず、この小さな森に執着し始めた私は、数日後、ついにその秘密を解き明かしてしまった、というわけである。



絶対、隠しエリア……だと思ったんだよねぇ。ですよね。“有眞”さん。
ゲーム開発者としての彼はL.A.N.開発に乗り出す前の事業の名残で、ファンからは「ミカナギ」と呼ばれ続けているそうだが、それは彼の旧姓だ。
現在の彼は、IT業界大手企業の重役にまで出世しており、天才プログラマーとしても相当に名高い為、同職ならば、そのご尊顔や経歴まで含めて、知らない者などいないのだ。
もちろん私も一方的ではあるが、知っているし、尊敬している。



L.A.N.開発で激務だろうに…。すごいな。見習わないと。
私はそんなことをぼそっと呟く。どうにも仕事モードが抜けきらないまま、一般プレイヤーとは全く違う楽しみ方をこのゲームに見いだしてしまった私は、この半年、自陣エリア、ファータ・クーラの「隠しエリア」探しに明け暮れてしまって今に至るので、フレンド登録欄の方はというと、残念ながらこの森とは違って、閑古鳥が鳴いている。



このトリガーは同職でもないと気付けないですよ、“有眞”さん…w
何度笑ったことか。開発者はどうやら、結構、お茶目なようだ。
この世界には、おそらくそんな場所が、たくさんある。
私も多忙といえば多忙なので、自身のレベル上げがそこまでできているわけでもなく、行けるエリアには限りがあるのだが、該当範囲内だけでも9箇所ほどあって、その内容は実に、様々である。
おそらくこの情報、世間(?)に流せば、名だたる廃人プレイヤー達が目の色を変えてなだれ込むであろうレア素材が眠っていた場所もあるのだが、私は初期エリア近く、やはりこの静かな森が一番のお気に入りなのだ。
なんたってシマエナガに会える。可愛い。多分テイムできるんだろう。
こうして、実は一部のプレイヤーの間では、“名も無き森の亡霊”のような扱いになってしまっている私だけど、ほんと、それは、すみません、としか言えない。
そりゃビックリするよね。何もないところに白い服の人影見えたと思ったら隠れちゃうんだから。ごめん、コミュ障で。
まぁ、それは、仕方ない。話を戻そう。9箇所、といったとおりだ。
この半年、隠しエリアを発見し、マッピングすることだけに注力していたものの、さすがにこの大陸にはもうこういった場所は見つかりそうにない。



いや、もしかしたらまだあるのかもしれないけど……。
入れないんだよな……モンスター強すぎて…。
それに、多分……この西大陸だけで9箇所……ってことは……
この、敵国プレイヤーと遭遇してしまいそうな別エリアにも……
あるだろうなぁ……。
これを探すとなると、さすがにソロでは無理そうだ。



……。とうとう、行くかぁ。首都…!
私は覚悟を決める。チュートリアルにまだ表示されたままの“洗礼花(イセミナ)”システムすら解放していないから、自分のレベル自体は歩き回ってその辺のエネミーを倒し続けただけにそれなりに上がっているが、基本スキルのみでの縛りプレイ!みたいになってしまっていて、固有スキルの欄がグレイアウトしたままだ。



頑張れ、私。
少女は自分を鼓舞すると、とうとう森から、首都へ向けて出発するのであった。
CHAOS SIDE
アタッカー ALICE(アリス)の場合……



くっ…。こんなに、きついなんて…。
僕は今、この小柄な身体にはどうにも似合わない“大鎌”を片手に、非常に困っている。
中学に、あまり良い想い出はない。
1年目はそれなりに友達もできた。部活にも入って、好きな女の子もできて。
楽しかった。
だけど2年目の春、クラスが変わって。
突然、陰湿ないじめのターゲットになってしまった。理由なんて、なかった。
友達だと思ってたやつらは、誰も助けてくれなかった。
家に引きこもるようになって、そのまま高校も通信にせざるをえなくなった。
本当は行きたい学校があった。部活も続けたかった。
学校帰りに寄り道したり、好きな女の子と遊んだり。
楽しい学生生活がしたかった。
なのに。もう、取り返しがつかない。いったい、僕が何したっていうんだよ。
何もする気力が起きず、ぼーっとパソコンの画面を眺めていた時、このゲームの存在を知った。最初はただ暇で、「抽選受かったし、やってみるか」と現実逃避的に始めただけだったんだけど、やればやるほど強くなって、努力がしっかり報われるこの世界に、僕は次第にのめり込んでいったんだ。
あれから半年――。
僕が選んだのは、女王“ゴッドマザー”が支配する、弱肉強食の国、“混沌国(ケイオス)”だ。
上記の通りの経歴なので、あまり人付き合いは得意じゃない。
そんなわけで武器種も豊富で、回復役の概念がない、ソロプレイでも何とかなりそうなこちら側を選んだわけだけど、これが結構性に合っていて、ここまでは順調に戦績を上げることができていた。
初動で“スニーク”スキルを使えるようになったのが、大きかったんだろう。
僕が選んだジョブは“アタッカー”なんだけど、初期設定武器のでっかい鎌がどうにも扱いづらくてさ。ちょっと高かったけど、ブラックマーケットで一目惚れした“双剣”を、開始早々、有り金叩いて買ってみたんだ。
そしたら“仮初宝(ペルソナ)”、あぁ、こっちの国の固有アーティファクトのことね。
その人の“人格”を反映した秘宝、って設定らしい。こいつが道を示してくれたんだ。
僕のは“タンザナイト”って青い宝石なんだけど、すっげぇ綺麗だったからさ。
初動で金に困ってちょっと換金することも考えたんだけど、ほんと売らなくてよかった。
とにかく隠れて、そして後ろから音もなく、一撃で仕留める。
こいつのおかげで、そんな、まるでアサシンみたいな戦い方ができるようになって。
殺伐とした国なだけにプレイヤーも好戦的な人間が多いんだけど、普段安全エリアで、たいして強くもないのに偉そうにしてるやつらの寝首を掻くのは本当に気持ちよかった。
まるで、僕の人生をめちゃくちゃにしたやつらに仕返しできてるみたいな感覚に陥って。
それ以降ずっとそんなことばかりしてたら、ものすごい勢いでレベルが上がって。
ほとんどのプレイヤーが雑魚に見えるくらい、PKが捗ったんだ。
だけど。
最近、一撃で仕留めきれないことが増えてきた。
半年も経ったからか、なかなかレベルが上がらなくなってきてさ。
しかも、僕、ソロじゃん?
さすがにPTプレイ前提の高難易度ダンジョンは厳しいんだけどさ。
そういうやばい場所で徒党組んで荒稼ぎしてるやつらに、追いつかれ始めたんだ。
そして、不運に見舞われたのが先日のことだった。
焦った僕は、ちょっと無理して野良PTに参加して、難しめだけど経験値の美味しいダンジョンにレベル上げにいったんだけど。
そこで組んだPTメンバーと喧嘩になってさ。そのままPKされた。
やっぱ、ソロを貫けばよかった。まさかこんなことになるなんて。



僕の“仮初宝(ペルソナ)”…。
何でブラックマーケットに流されてないんだよ…。
そう、今、僕は、己にとっての生命線とも言える“固有スキル”が使えない。
アーティファクトを奪われてしまったからだ。
PKされたのは悔しいけど、まぁ、僕の落ち度だし。
奪われた物は買い戻すしかないか……としょぼくれながら闇市に行ったんだけど、そこでNPCなのかプレイヤーなのかもよくわからない怪しげな店主に、「タンザナイト?そんなものは入荷してないねぇ?」と言われてしまったのが数日前。
それから毎日通ってるけど、待てども待てども一向に流れてくる気配がない。



他のやつらにとってはただの換金アイテムなはずなのに…。
あいつ……、何でだよ…。嫌がらせか?
仕方ない。
自分をPKしたやつに話しかけるのは癪だったが、これではソロプレイに支障が出る。
痺れを切らした僕はいったん慣れない大鎌での狩りを切り上げると、自国の首都に戻って数日前に喧嘩したプレイヤーを探し始めた。
▼



やっと、見つけた…!



あぁん?あぁ、てめぇこの前の野良の!ヤんのか?!



はぁ、ヤらないよ…。ここ、PK禁止エリア。無理なの、わかってるだろ。



……じゃあ、何の用だよ?



僕の“仮初宝(ペルソナ)”。何で売りに出してくれないんだよ。
買い戻したいから早くしてくれ。さすがにマナー違反だろ。



……うっ。いや、その……



……? 何、なんなら直接金払うから。



いや、実はさ……。奪われちまった。



は?何、おまえもPKされたの?
めんどくせぇ~…。誰に?取り返しにいくから教えて。



……………………シストマキャヴェリ。



……………………。
二人の間に、長い沈黙が流れる。



え、えぇぇぇえぇぇえっぇえl!?冗談だろ!?!?秩序の!?



す、すまねぇ……。まじなんだ……。
あの後、調子乗ってスルドの近くでソロ狩りしてたら遭遇しちまってさ…。



仮にもレッドネームになった後に何やってるんだよ。スルドなんて……。
敵陣のものすごい近くじゃないか……。



いや、まさかほんとに遭遇するなんて思わないじゃん!?
まぁ、ほら!?なくても何とかなるって。
結局アタッカーは“鎌”が一番強いんだしさ。



僕にとってはそうじゃないんだよ!!!馬鹿ヤロー!!!
めちゃくちゃバツの悪そうな目の前の相手に貧相な語彙力の暴言を吐いて、僕は走り出す。
泣きそうだったからだ。



ど……どうしよう……。あれがないと……僕……。
ひとしきり首都を爆走して、誰もいない小汚い路地裏で、僕は膝を抱えて座り込む。
この国でアーティファクトが奪われる、なんてのは日常茶飯事だから、金さえ出せば戻ってくるものだと思ってた。
でも、僕の“仮初宝(ペルソナ)”はどうやら敵国の、しかも“秩序国(コスモス)”最凶の聖女と謳われるPKKerの手中にあるらしい。



敵国の人との連絡って……取れるんだっけ…。ぐすっ…。



あ、あのぅ……。だ、大丈夫ですか?
誰も居ないと思って膝小僧に頭をつけて泣き出してしまった僕に、突如、声がかかる。



……!?だ、大丈夫だよ!あっち行けよ!!



いや、でも…。泣いてる…。
青い髪の、すごく可愛らしい少女が、僕の頬に手を伸ばす。
びっくりして彼女の手を思わず振り払った僕は、それが、“国内一の弱者”と揶揄される女の子だと気付いて、さらに情けなくなって顔を背ける。



……おまえに心配されるなんて。僕も堕ちたな。



……。ご、ごめんなさい。でも、その……。
つらいことがあったなら、誰かに話すと気が楽になりますよ。



……。おまえ、いつも“あんな扱い”されてるのに誰に対してもそうなの?
そういう偽善的な優しさ、僕は持てないね。信じらんねぇ。
秩序の方が合ってたんじゃねぇの?



……そう、かも。でも、自分で選んだから。
ここで頑張ってみたいんです。



…………。へぇ。結構根性はあるんだ。



……? えへへ。それだけが取り柄です!



…………。聞いてくれる?なっさけない話なんだけどさ。



……! はい!私でよければ是非!
“捨てる神あれば、拾う神あり”とはこのことか、と。
僕は目の前の天使に心の中でものすごく、感謝していた。
ユニーク AYA(アヤ)の場合……



アヤさ~ん。いますかぁ~?



珍しい。君がここに来るなんて。
……おっと?男連れとは。君もなかなかやるじゃないか、ロゼ。



そ、そんなんじゃないですよ!



ふ~ん?へぇ~?
“国内一の弱者”と謳われる、何ともこの殺伐とした国には似合わない、可愛らしい顔立ちの青い髪の少女をにやにやとした表情でからかいながら、私はいじっていた機巧パーツをそっと机の上に置いて、立ち上がる。
ここは“闘技場”。
私が立ち上げた、まぁ、要は“戦闘支援ギルド”のようなものだ。
この国には4つのジョブがあって、その最大の特徴は回復職が存在しない超攻撃型のお国柄、ということだ。
その分、機巧技術や薬品製作技術が発達していて、そういった自己支援アイテムの調達も含めて、全てが自己責任、弱肉強食の世界、という感じの設定になっている。
私はというと、ジョブはユニーク。まぁ、要は支援型ドローンを使ったバッファー職なのだが、そんなことよりも最近は特に、“製作”にお熱だ。金儲けは、楽しい。
いや、もちろん、この国内PKエリアの“首領”の特殊称号を、自国女王“ゴッドマザー”から得ているだけあって、戦闘でもそこらのプレイヤーには引けを取らない実力はあるつもりだが、自分だけ強くなっても、そして、”無闇に”自国の民をPKするのも、無意味だ。
そうは思わないか?
この国のプレイヤーは脳筋の阿呆が多くて、皆、真の目的を忘れている。嘆かわしい。
いいか、このゲームは天下の“ミカナギ製”だぞ?
真のクリア者になれば、莫大な報酬が手に入る。
なのに!だ。
ロンチから約半年が経過した昨今、この国の民は皆、“領土拡大”というこのゲームの最重要要素を蔑ろにし始めている。
そりゃまぁ、停戦期の日常も楽しいさ。
私だって、現にこうして“売れる”製品の開発に余念が無い。
だが、おかげさまで敵国の方が常に領土占有率が高い。
領土が狭い、ということは、武器や防具の強化素材を手に入れるのだって一苦労だというのに、まったく、困ったものだ。
これでは負けてしまう。自国の領土が2割になってしまった数ヶ月前、冷や汗をかいた私は、この国の戦力を強化するべく、“特殊クエスト”のクリアに乗り出した。
そうして、この“闘技場”を手に入れ、今では自然と弱者がここに足を運んでくるように、いろいろと姑息な策を講じている。
秩序と違って、うちの民は言ったって聞きやしないからね。なら、頭を使うまでだ。
この天使のような見た目の少女、後衛純アタッカー職のガンナー、“ロゼ”も、そんな“弱者”のひとりだ。
まぁ、この子は少々問題児で、何度訓練してやっても本人自体のプレイヤースキルは一向に向上しない、何とも壊滅的な戦闘スキルの低さを発揮しているのだが…。



それで?今日は何の用だい?初めて見る顔だね、少年。



…うっ。えっと……。



アヤさん!
“秩序国(コスモス)”の人と連絡を取る手段ってありませんか?



あぁん…?藪から棒に、何だい…?敵国のプレイヤーと、連絡?
何を言い出すかと思えば、本当にこの子は面白い。
弱いというのに、いつもとんでもないことを言い出す。



じ、自分で話すよ。えっと、初めまして。お名前はかねがね。
僕、アリスと言います。実は折り入って相談したいことがあって…。



ふむ。聞こうじゃないか。
生意気そうな少年だと思っていたが、見た目に反して割と礼儀正しいようだ。
立場を弁えられる者は、嫌いじゃない。



敵国の人……、
“シストマキャヴェリ”に奪われた“仮初宝(ペルソナ)”を取り返したいんです。
あれがないと、固有スキルが使えない。



oh……。よりにもよって何で“彼女”に……。
これはまた、実に厄介そうな話が舞い込んできた、と、いったん苦笑い気味のロゼと視線を交わした後、今にも泣き出しそうな少年に向き直って、私は詳しい事情の把握に乗り出した。
ガーディアン EDO(エド)の場合……



パーツが足りない!!!
青年は、高らかに叫んでいた。
周りにいた“技師”達が「今度は何だ?」といったいぶかしげな表情で、一斉にそんな彼へと視線を向ける。



これでは俺の可愛いファーヴニルが!! 直らないではないか!!
事の発端は、先日の“公式大規模PK戦”だ。
今、俺が居るのは“ブラックスミス”と呼ばれる自国エリア内の大工房だ。
まぁ、要は俺が立ち上げた“製作技師ギルド”みたいなものなのだが、ここへ来て由々しき問題の発生である。
この国には“回復役(ヒーラー)”が居ないから、戦闘中の自己回復や防御手段の確保は全国民の課題である。元々機械ヲタクなこともあって、かなり早いうちから俺はこの“混沌国(ケイオス)”固有の製作技術、“機巧製作”に目を付け、今ではそのシステムで作られた“機巧”を国内に流通させる商業ギルドの長の特殊称号を得ていたりする。
本来ガーディアンといえば、重鎧が基本装備の耐久力自慢の火力職なのだが、俺に関してはそっちの強化にはまったく手をつけておらず、自分で言うのもなんだが、残念ながら本体は雑魚である。
だが、しかし!俺にはこの鋼鉄の巨人という最強の鎧がある。
ちなみに正式名称であるが、
TITAN_Full Armament:Variablemachine,
Nextgentype [Inevitable Ruin of“KOSMOS”]
である。
ん? どういう意味か、って?よくぞ、よくぞ!!聞いてくれた!
大型重装機巧:可変式次世代型「避けられぬ秩序の破滅」だ! 実に、クールだろう?
我ながら素晴らしい命名だと自負しているのだが、まぁ、皆が呼ぶには少々長いのでね。
そこで後半は涙を呑んで略すことにして、通称、「TITAN_FA:vnir」
いいか?ファフニールではないぞ? ファーヴニル(fa:vnir)だ!
これは古ノルド語の発音にもっとも近いとされる発音さ。一つ賢くなったな、そこの君!
……おっと、少々白熱してしまった。話を戻そう。
つまりだな。広大な土地で敵国プレイヤーをPKする領土拡大イベント戦において自由に空を舞い、この巨体から放たれる地獄の業火で広範囲を一気に火の海にすることが可能なこやつがあれば、本体、つまりちっぽけな人間のステータスなどもはやどうでもよいではないか!と、ログイン早々にして、俺は気付いてしまったのである。
そんなわけで、これまで、イベント戦では結構な無双状態だった俺なのだが、
先日ついに“敗北”を喫したのだ。



“純潔の女王(カサブランカ)”の眷属…“
ユイ”の“洗礼花(イセミナ)”を持つ女…。
さながらそれは、聖母マリアからの強烈な一撃……!
くぅぅぅ~!痺れたぜ~~!
この俺にもようやく宿敵が登場したとみえる!
楽しくなってきたな!!ふははははは!!



馬鹿言ってないで仕事してください。で、何が足りないって?
大声で独り言を言いながら盛り上がっていた俺に、仲間の技師が冷たい一言を投げたわけだが、そんなことは気にも留めないといった様子で、エドは楽しそうに彼に向き直る。



よくぞ聞いてくれた!
この俺の可愛い「TITAN_FA:vnir」に今足りないのはエトナ大火山の鉄鉱石だ!!
“秩序国(コスモス)”では“大怪鳥”などと何ともひねりのない名前で呼ばれているらしいことは誠に遺憾だが、
まぁ、それはいずれこの美しきファーヴニルの名を世界中に知らしめてやればいいだけのこと!
だが、先日の滾る戦いで左翼が破損してしまってね!
大量に鉄が必要なんだが、手持ちでは足りなさそうだ!!
それにしても、皆、すごいとは思わないか!
油断していたとはいえ、まさかの貫通だ!!
あの時の俺のこの胸の高鳴りといったら※☆○×くぁえrじゃlうぇ……



あー、わかったわかった。鉄鉱石ね。
誰か、素材持ってなーい?なんかエドが足りないってー。
大量に要るってよ~。



あるよ~。いやぁ、ベルクさんが取引してくれるようになってから、
鉄鉱石の調達、楽になったよね~。ほれ~。



こっちにもあるよ~。えいやー。あ、金、あとで振り込んどいてね~。



あぁ、俺らにも振り込みよろしく~。



よろしく~。
イベント戦での素晴らしき宿敵との邂逅について語ろうとした俺だったが、彼らはそんな俺をどこ吹く風でスルーして、次々に俺が所望した“素材”、鉄の原石をぶん投げ始める。



ちょ、待、痛い!投げるな!!
きっちり督促付きの手荒な気遣いをその身に受けて、「とほほ……」といった様子で大量の鉄鉱石を回収し始めた俺に、後ろから声がかかる。



相変わらず、賑やかだねぇ。



お?アヤじゃないか。どうした珍しい!
とうとう俺の話を聞きたくなったか!?



んなわけあるか。エド、あんたにお客さんだよ。



ど、どうも…。



……?誰だい、君は?
はっ!もしかして、技師志願者かい!?
そうかそうか、いいぞいいぞ!
俺と共にこの巨大マシンを我が愛しき“混沌国(ケイオス)”に普及させようではないか!



やだよ…。そんな非効率的な戦い方…。



エドさん…、こ、こんにちは。



おぉ~?ロゼ嬢まで!相変わらずこの混沌にはもったいないほどの可憐さだね!
調子はどうだい!その武器!改造してロボ化してしまえば強くなれるぞ!
この俺からの素晴らしき提案!とうとう受ける気になってくれたかい!?



改造は、しません…。今日はそうじゃなくて……
敵国のプレイヤーさんとの通信手段についてのご相談を……



……通信?ふむ?もちろん解放しているが……いったい、誰と?



じゃ、あとは任せたよ~。
ロゼがそこまで言ったところで、闘技場の首領、アヤが「役目は果たした」と言わんばかりの顔で、ひらひらと手を振ってこの大工房をあとにする。
残されたのは二人のちびっ子達だ。
初めましての方の少年が、意を決したように話を切り出す。



実は……“シストマキャヴェリ”と連絡を取りたくて…!



……………………。
時が、止まる。



シストマキャヴェリぃぃぃぃぃいぃぃ!?
青年のひときわ大きな声が木霊して。
その、敵国最凶の聖女の異名を前に、大工房中が不穏などよめきに包まれた。
ユニーク KUREHA(クレハ)の場合……
ゲームの中でまで花は見たくない。
そう思ってこの“混沌国(ケイオス)”に籍を置いてみたのだけれど。“手折る”なら話は別ね。
私の家は由緒正しき華道の宗家だ。次期家元、レールの敷かれた人生。
その生活に特に不満はないけれど、でも、だからといって華道だけが私を構成する全てではないわ。
架空世界では、新たな自分の可能性を試してみたくて。
私はあえて、この無法の地に飛び込んだ。
敵国のアーティファクトシステムは“花の洗礼”。
自分がもしも向こう側に属していたら、何の花に選ばれたのか。
少し興味はあったけれど、でも、花は私が“選ぶ”もの。
そんな私の二面性を象徴するかのように、昼夜でその輝きの色を変える“アレキサンドライト”が、私の“仮初宝(ペルソナ)”として選ばれた。



随分しっかりと分析してくれるシステムなのね。
さすがはかのL.A.N.開発者直々のお戯れ、といったところかしら。
“ミカナギ”……と呼ばれている彼だが、現在は“有眞”家の婿養子として迎え入れられて、ご自身の事業を拡大し続けている、相当のやり手である。
私の家はその“有眞”の本家が経営する“音楽大学”と懇意だから、実は彼とお話したこともあるのだけれど、それはもう頭の回転が速そうな男性であったことはよく覚えている。



せっかくあの“有眞”様からこんな素敵な“仮初宝(ペルソナ)”を提示して頂いたのですから、易々と奪われるわけにはいきませんよね。
そう思ってロンチ当初からかなりやりこんできたこのゲーム。
そんな流れの中で敵国領に近い高難易度ダンジョンに挑んだ帰り、私は“秩序国(コスモス)”のプレイヤーからの奇襲に遭ったのだ。
必死で応戦し、初めて、人を殺した。
レッドネームとなった私の前に落ちたのは、“洗礼花(イセミナ)”。
仕掛けてきた方のアーティファクトだった。
それ以来、私は敵国の“花”を手折ることに快感を覚えるようになってしまったのだ。



だって、とても綺麗なんですもの。
少々申し訳なくはある。
こちらの国では“固有スキル”の発動条件となっている“仮初宝(ペルソナ)”。
正直、初期設定武器が一番強いので、別系統の武器種をさらに育てたい奇特な人間以外にはこのシステムを利用している人間は少なく、お金の為に自ら手放す人すらいる始末だ。
だが、敵国の“洗礼花(イセミナ)”は純粋に“上位スキル”の使用条件となっているらしいから。



ないと、困るんでしょうねぇ。うふふ…。
我ながら若干、性格が悪い。
相手が困っている姿を想像するとぞくぞくして、自然と笑みが湧いてくる。
そんな物思いに耽っている最中、ピピピっとシステム通知音が鳴り、私は現実に引き戻される。



あら、エドさんじゃない。“至急、大工房へ来られたし”……? 何かしら。
大工房“ブラックスミス”の技師長、エドにはとてもお世話になっている。
私の選んだジョブはユニークで、要はバッファー職なのだけれど、敵国プレイヤーを狩り始めてからアタッカー的な攻撃能力も強化したくて、初期武器として与えられた支援用の“ドローン”をいろいろと魔改造してもらうようになって久しいからだ。



彼の頼みとあっては断れませんね。行きますか~。
そう言うと私は狩り場から離脱し、自国の首都へと転移した。
▼



来てくれたか!クレハ嬢!!我らが救世主!!!
私が大工房へ赴くと、呼び出しの主、エドが、普段の自信に満ちた雰囲気……ではなく、
少々困惑気味の表情で、熱烈な歓迎をしてくれて。



……? エドさん、いつもお世話になっております~。
今日はその……何事ですか?
彼の背後には、なぜか可愛らしい子供がふたり、私に明らかな期待の眼差しを向けて、その小さな顔を覗かせている。



いや、実はだね……少々困ったことになってだな……。
本当に珍しい。エドさんがこんなにも歯切れの悪い話し方をするなんて。



……お、お役に立てますかしら……?
できる限り善処はするつもりですけれど……。
絶対に難題が来る。そう確信した私は、少々身構える。



ほ、ほら。アリス少年。このお姉さんが、そうだぞ。
丁重に御挨拶なさい。



は、はい!初めまして!僕はアリスといいます!
今日は折り入ってご相談したいことがありまして……!



あら。初めまして。私はクレハよ。
えっと、どういったご用件、かしら?



その……実は……。
クレハさんの集めている“洗礼花(イセミナ)”をひとつ、譲って頂けないでしょうか!!



“洗礼花(イセミナ)”を? また、どうして……?



じ、実は……。
思ってもないお願いに少々驚いた私に、可愛らしい少年は事情を説明し始めるのだった。
▼



な、なるほど……。エドさんが私に連絡してきた理由がよくわかりました。



だ、だろう……?



わ、私からもお願いします!このままじゃ、アリス君、戦えなくなっちゃう…。



ロゼ……。おまえほんといいやつだよな…。



……?
少年が“国内一の弱者”と謳われる少女の優しさに感動し、だんだんとほだされているであろうその姿を、私は微笑ましい気持ちで眺めている。
協力してあげたい。素直にそう思わせる子達だ。



うーん、そうですね…。“お相手”の要求に見合うもの……。
話はこうだ。
“お相手”、つまり、秩序最凶の聖女“シストマキャヴェリ”の手中に、この少年の“仮初宝(ペルソナ)”が落ちてしまい、それを取り返すべく、おそるおそるではあるが、エドが彼女と連絡を取ってみたらしい。
彼はリアルでも機械ヲタクとのことで、敵国との通信機、などという、“このゲームにそんなもの、要るか?”といったマニアックなアイテムまでカバーしているゲーム内技師製作物のマニアだから、この少年少女に泣きつかれたアヤさんが彼を紹介するに至り、そして、そのまま丸投げしていった、ということだった。



これ……かな。
私はひとつの“花”を皆の前に提示する。



うわぁ。綺麗……。



おぉ……花なのに、キラキラしてる…。



ほぅ……。これが敵国の…。
皆が一様に関心を示して、私は少し満足げに入手経緯の解説を始める。



アイテム名、ハイドランジア。
現実の世界では、“アジサイ”と呼ばれるお花ですね。
たしか……ナランガルの果樹園で堂々とつまみ食いしようとしてたビギナーっぽい女性のものだったと思います。
敵領との境目にある自然豊かな美しい果樹園ですから、自国の領土と勘違いされていたのかもしれませんね。



そんな者にも容赦しない。その姿勢や、恐るべし…。



うふふ……つい……。



へぇ…。ビギナーの?ですか?
“シストマキャヴェリ”といえばPKKで有名な実力者なのに。
初心者支援……?ますます、何考えてるのかわからないな…。



案外、優しい方なのかも……?



いや、それはない。絶対に、だ……。
通信で先方のお相手をしたエドが、とても苦い顔をしてロゼの一言を全否定するその姿に、私は思わず笑ってしまう。



私も敵国のプレイヤーを狩るPKerの端くれですから彼女の噂はもちろん知っていますけれど、
遭遇した方のお話によれば、かなり“狂気的”な方、とのことですから
まぁ、その……、無策で会いにいくのはよした方がよろしいかと…。



そのとおりだ。先方の要求は“物々交換”。
『我が陣営の“辛抱強き愛”を返してくださるのなら!』との仰せだった。
まさかこのマニアック極まりない通信機を使う最初の相手があの“シストマキャヴェリ”になろうとは…。
PKerだというのに、あの、異様な明るさ…。ほんとに、恐ろしかった…。
あれはくせ者だぞ…。少しでもご機嫌を損ねれば、その場で全員狩られかねない…。



うっ…。な、なんかすみません…。巻き込んでしまって…。
クレハさん、お代は……。



子供からお金を取る趣味はないわ。その代わり、今後とも仲良くしてね。
イベント戦で協力できる方を探してたの。



……! あ、ありがとうございます!



よかったね、アリス君。とりあえず、お花、見つかって。
でも…。ここからどうしましょう?
エドさんのお話じゃ……下手すると全員返り討ちに…。



少年、クレハ嬢の粋な計らいだ。その金で護衛を雇おう…!
残念ながら、俺の可愛いファーヴニルは現在、鋭意修理中だ。
戦闘ではお役に立てそうもない!いや、本当に、実に残念だ…!
我が愛機を“大怪鳥”などと安易な名で呼ぶ敵国にファーヴニルの名を知らしめる絶好の機会だったかもしれry※☆○×っkj
「そもそもこの停戦期の敵国近くにそんなので出向いたら、いい的にしかならんですよ」などと、周囲の技師たちからエドに総ツッコミが入り、いちいち話の長い青年が憤慨するのをさらっとスルーしながら少年は言う。どうやら彼の扱いに慣れてきたらしい。



護衛、か…。そうですね。今の僕じゃ万に一つも勝てる気がしないし。
その……誰か、いい人、知りませんか?自慢じゃないけど、
僕、これまでソロ専門で…。



う、うーん。アヤ……。いや、それでは、少年が破産してしまう。却下だ。



わ、私もちょっとシストマキャヴェリのお相手は……。



……。ひとり、いるかも。



……! マジで? 誰!?



……“ブラッドサースト”…さん。
もう何度目だろうか。時が、止まる。



いや、それは



無理だってぇぇぇぇぇぇ!?
少年と青年の大きな叫び声が重なって木霊して。
再び、この大工房が不穏などよめきに包まれた。
ガーディアン TAC=AN(タク=アン)の場合……



やよいちゃん聞いてよ~。今度“ミカナギ”の新作が出るんっすよ~!
現実鏡像世界L.A.N.を通して、“患者”さんと話していた時、私はこのゲームの存在を知った。あぁ、ちなみに私は看護師で、この患者さんは関節痛で通院中の43歳男性だ。
今日は予後の経過を診るだけなのでオンライン受診だが、気さくな方なので、オンラインだろうが、オフラインだろうが、本当に、まぁ、よく喋る。
ただ、下心がある雰囲気でもなく、全然悪い人ではないので、特に思うところはない。



抽選受かったら“秩序国(コスモス)”で
ヒメチャンプレイを謳歌しますよ!俺は!
花村さんも一緒に応募してるんっすけど、やよいちゃんも、どう!?



へぇ~、花村先輩、ゲームとかやるんですね~。
それよりほら、紅蜘(こうち)さん、先生、呼んでますよ。



あなたねぇ……現実でまで若い子にうざ絡みしないの…。
というか部下にそんなことばらさないで頂戴…!
みんなには黙っててね!やよいちゃん……!



は~い。承知です~、先輩~。
あの時はまるで興味がないように振る舞った私だったが、実は、興味津々だったなんて、口が裂けても言えない。仕事柄、患者さんとは一定の距離感を保つようにしている。



受かってしまった。
紅蜘さん、たしか“秩序国(コスモス)”……って言ってたよな
ということは、花村先輩も多分そうだろう。
患者さんはもちろん、職場の先輩とゲームで……なんてさすがに気まずい。



よし、こっちにしよう。“混沌国(ケイオス)”。ふむ。
職業にちなんで回復でもやろうかと思ったけど、なんだ、魔法職、こっちにはないのか。
……じゃぁ、これ。ガーディアンでいいや。
そんな適当な理由でさくっとジョブを選び、さらに……



名前……?本名は……まずい、身バレは勘弁。
んー……。
ちょうど食べていた目の前の夕飯に目が留まる。



Tac=An、と。よし、できた。行ってみよ~!
あれから、半年――。
どうやらあの後も定期的に通院中の紅蜘さんの話によると、花村先輩は“秩序国(コスモス)”で相当なド廃人と化しているらしい。ちなみに、当人は宣言どおり、リコとかいうふざけた名前でヒメチャンプレイを貫いているとのことだ。



おかげさまで、筒抜けなんだよなぁ。“秩序国(コスモス)”の情報。
公式大規模PK戦で無双していたもはや剣士なのか魔法職なのかヒーラーなのかもわからない戦闘狂の女の子が1人居るのだが、その子の名前がネリネで、騎士団の規則を守らせたい花村先輩がめちゃくちゃ手を焼いている、とか。



あのピンク髪にだけは近づかないようにしよう…。触らぬ神に祟りなし。
そんなことを思いつつ、私は今日も鍛錬の為に“闘技場”に足を踏み入れる。



お、タクじゃないか。毎日熱心だねぇ。



アヤさん、どうもです。……なんか、お疲れです?
要ります?プロテイン。
この人はこの“闘技場”の主だ。ゴッドマザー由来の特殊クエストをクリアした猛者で、支援職だというのに、べらぼうに強い。なんだかお疲れのように見えたので、私は興味が湧いて薬品の製作スキルで作った自己強化アイテムを思わず彼女に手渡していた。



うわっ、出た…。まっずいんだよなぁ、これ…。
いやぁさぁ。さっきまでエドのとこに行ってたんだけどね~。



え、アヤさんがですか。明日は雪が降る……?



かもしれない。アリスって知ってる?アタッカーのちびっ子少年なんだけど。



いえ?初耳ですね。その子がどうかしました?



なんか、“シストマキャヴェリ”に“仮初宝(ペルソナ)”強奪されたらしいよ。
あの“ロゼ”と一緒に、連絡取れないかって泣きついてきてさぁ。



うわぁ……。それ、もう取り返すの無理ゲーなやつじゃないですか。
ご愁傷様ですね。



それがそうでもないかもしれないってさ。エドが連絡してみたらしくて、そしたら終始楽しそうにしながら交換条件提示されたって話さ。



へぇ?意外ですね。話、聞いてくれる人なんだ。
よかったじゃないですか。で、交換条件って?



アリス君のがタンザナイトらしくて、代わりに、青い“洗礼花(イセミナ)”寄越せってさ。



青がお好きなんですかね?
……ってことは、シストマキャヴェリと会うんですか?
エドさん、殺されません?それ。



そゆこと。だもんで、アリス少年とエドは護衛を雇おうって魂胆みたいでね。
その間に頼まれてくれ~って言われたんだけどさぁ。これでどうしろ、と……。
いつもニヤニヤしながら人を手のひらの上でころがしているアヤさんが、ものすごくマニアックな“製作アイテム”を前に、珍しく困った顔をしている。



うゎぁ、それ敵国への強制通信機じゃないですか。
ほんとに存在するんだ……?



エドお手製だよ。こんなもんにレア素材突っ込む阿呆はあれしかいない。



それがここにあるってことは、つまり……?



できれば穏便に受け渡しが済むように、“秩序国(コスモス)”と話をつけろ、ってさ。



あぁ……まぁ、普通にどこかで“彼女”と落ち合っても、
きっと返り討ち、ですよねぇ…。



そんなこと言われたってさぁ……!
私は騙し討ちの戦略考える以外は向いてないんだよぉ……。
“秩序国(コスモス)”に知り合いなんか居ないしさぁ。



……。ふむ。
とある患者の顔が浮かぶ。いや、でも……。



……?



1人、心当たりが……あったりするかも……?



……まじ?
▼



うぉ、なんだなんだ!?“混沌国(ケイオス)”から!?え、怖っ。何コレ特殊クエスト!?
通信機の向こう側から、聞き慣れた口調の“可愛い女性”が焦る声が聞こえてくる。



あー……えっとー、聞こえますかー?



誰!?何これ!?



夜分遅くにすみません~。“紅蜘”さん。



……!? いや、え、ほんと、誰!?俺のストーカー!?



ストーカーじゃないです…。
その声…。ほんとにヒメチャンなんですね…。



……。え、もしかして、やよいちゃん?
察しがいい。あぁ、とうとうばれてしまった。まぁ、仕方ない。なるようになれ、だ。
アヤさんにはいつもお世話になっている。



あはは……花村先輩には黙っててもらえます…?
さすがに職場の人とゲームで顔合わせるのは気まずくて…。



……わはは!そりゃそうだ。任せろ。
いや、でも連絡してくれて嬉しいよ~!
やよいちゃん、いつも素っ気ないからさぁ。
で、どうしたの?



実は、ですね……。
かくかくしかじか、私は事の次第を説明する。



……なるほど。相手がサムサラさんかぁ…。
で、要求されたのが“ハイドランジア”……。ヴェロニカのだな。
どうやらあのPKKの鬼、“シストマキャヴェリ”はサムサラと言うらしい。
こちらでは神出鬼没の妖怪みたいな扱いをされているから、こうして相手国でしっかり人間として扱われているのを知ると、本当にプレイヤーなんだなぁ、などと当然の事実に妙な感心を覚えてしまう私が居た。



ヴェロニカ?例の“洗礼花(イセミナ)”の主さんですか?



そ。最近騎士団に入団した戦闘初心者の女の子なんだけどなー。
この前話題になってたよ。上位スキルの修得方法教えようとしたらまさかの“洗礼花(イセミナ)”行方不明、ってことで、ルビア……
あぁ、花村がね、PK経験もない初心者がイセミナ無くすとかある!?
ってそれはもう盛大に嘆いてたけど、謎が解けたなぁ。
ちなみに、サムサラさんは花の洗礼を受け持つ大神殿の神官長の称号持ちだからさ。
どうにかならないか、って泣きつかれて困ってたのは知ってたけど、これは……、今頃うっきうきで武器研いでるかもしれないな…。



シストマキャヴェリって困るんだな…。
ぼそっと、私達の通信を聞いていたアヤさんがそんなことを言って、私も内心「わかる。」などと思ってしまった次第である。
すみません、サムサラさんとやら。



こちらは1人の少年の引退がかかってるらしくって。
その、条件は同じなわけですし…。
お互いの安全を確保しながら受け渡す方法って、ないですかね。
例えば紅蜘さんと私で合流して交換する、とか…。



う、うーん……。サムサラさん、だからなぁ……。
敵国と通じてたなんて知られたら、俺が処されそう。



ひぃ。



なら、正式な場を設けるしかないな。
ねぇ、君、そちらの“騎士団長”とは懇意かい?



ライザさんっすか? あー、まぁ、妥当っすね。
ヴェロニカのが確実に返ってくる状況なら、多分サムサラさんのことも抑えてくれると思います。
情に厚い人なんで、あの子が落ち込んでるの、多分一番気にしてるし。



決まりだ。私はアヤという。
そちらでいう“騎士団長”格の称号持ちだとでも思ってくれ。
一度彼女と話をさせてもらえると助かる。



承知っす。団長なら敵国への通信機能、こっちも使えるはずなんで。
直接連絡入れてもらうように言ってみますね。



助かるよ。内通者みたいなことをさせてすまないね。



いえいえ、ヴェロニカの為っすから!
お互い挨拶した後、通信が切れる。



よかった。話、まとまったみたいで。



いや、助かったよ。お礼は?何がいい?



おぉ。では!一戦お相手願えますか?!



それでいいのか……脳筋め……。
ユニーク LUNAMELA(ルナメラ)の場合……
私、清水神奈(27)は腐っていた。
社会人になってからというもの、スーツで仕事に明け暮れてばかりで、趣味で集めたロリィタ服が家のクローゼットで寂しく眠ってしまっているからだ。



こんなことなら、アパレルにでも就職すればよかったなぁ…。
現実は非情だ。どんどんと老け込んでいく自分の顔を会社のお手洗いの鏡の中に映して、私は深く溜息をついていた。



ど~したん?辛気くさい顔して。



いや……、永遠の17歳になりたいな、って思ってね…。
できれば森の中の洋館でお人形に囲まれて……



どういうホラーよ。あぁ、そういえば、ミカナギ新作、発表されたらしいね。
なんかアバター豊富らしいよ?そういうのできるんじゃない?
……まぁ、抽選らしいけど。



その手があったか!!!
もはや最後の方は聞こえていない、といった様子で、私はその時大声で叫んでいた。
▼



うふふふふ……。
ここは“最果ての深森”と呼ばれる“混沌国(ケイオス)”の領土のひとつだ。
永遠の17歳、ルナメラとなってこの地に降り立った私は、このK or Cの本来の醍醐味であろ
う戦争要素には目もくれず、ハウジングや各種製作にハマっている。
絶対に遊び方間違ってる。その自信はある。



ごめんなさい、自陣の皆さん。
でも……私には野蛮な首都での生活は、似合わないの…。
正直、“秩序国(コスモス)”にしようか迷ったくらいには、私は少女趣味である。
では、なぜこちらを選んだかといえば、向こうには“ロリィタ装備”や“お人形”がないからだ。



ほんとは魔法が使えるジョブがよかったんだけどぉ…。
まぁ、仕方ないよね~。騎士団っていうのもちょっと違うし。
そう、魔法少女になれるのは敵国だけど、あちらは“制服”が基本なのだ。



まぁ、騎士団に所属しなければいいだけなんだろうけどぉ。
さすがにこういうゲームで完全ソロプレイはつらいしね。
そんな理由で後々のアバター自由度が高そうな“混沌国(ケイオス)”を選んでしまったわけだけど、ログイン初動はそれはそれはもう、つらかった。
選んだジョブはユニーク。“混沌国(ケイオス)”の中で唯一いかつい武器を携行する必要のない支援職で、初期装備の見た目も一番“マシ”だったからなんだけど。
それでもやっぱり、つらかった……!
武器は人形……といっても可愛くない機械だし!首都は殺伐としているし!
女王様までいかついし!!プレイヤーも脳筋だらけ……!!
前情報で一目惚れした“可愛い”要素は、全~部ある程度育ってからのお楽しみ……。
まぁ、ゲームって、よくあるよね…、そういうこと……。とほほ。



めげない……!
……と、躍起になって、製作系の攻略情報だけをひたすら追うこと約半年。
味方の皆さん、全然興味を持たないこの神秘の森の最北端に狙いを定め、念願の“魔女の洋館”(Lv1)を建てたところから、本体はそんな“隠れ処”に引きこもり、製作リストと睨めっこ。
自分の代わりにユニーク固有の戦闘ドローンを各地に飛ばしてあらゆる素材を集める日々。
そうこうしているうちにようやく最近、満足の行くお洋服やインテリア、そして“自ジョブのドローン”の見た目を自由に変更できる夢のアバター変更機能で、可愛いオートマタに囲まれる理想への第一歩、そんな生活が叶い始めた、という次第。



もっと……理想に近づけたいんだけど…。
私はそう呟くと頭を抱える。“叶い始めた”と言ったとおりだ。
まだまだ問題が山積みのように残ってはいるのだ。
まず第一に、戦闘には興味がない自分、使えるスキルが少ないせいで、見た目を変更しようにも、次なるドローンが手に入っていない。
残念ながら、戦闘においては、そんなレベルの初心者でしかない。
さらに、洋館自体の広さや内装、アバターにもっとこだわるとなってくると、未知のレア素材を入手する必要が出てくるのは、もはや素材リストから明らかだ。



ここに来て……こっちの強化も強いられることになろうとは……くっ…。
どうして全部高難易度要素と絡んでくるのよ…。忌まわしきミカナギめ…。
完全に八つ当たりである。だが、文句を言っていても始まらない。



仕方ない。“可愛い”は正義!やってやろうじゃないの~!
えっと、まずは……?これが欲しいわ!
泡沫の都!ポルタ・フォルトゥーナの各種素材!
……と“秘宝”?もあるの?
やばい、場所である。なぜかというと、現在は“敵陣”だからだ。
このゲームの地理はこうだ。
まず完全自陣となるこの東領“砂塵の大地アルデバラン”と、完全敵陣となる西領、“風吹く花の草原ファータ・クーラ”。そして、停戦期であっても領土の取り合いが行える自国PK有利エリアの南領、“灼熱の地フォーマルハウト”、そして敵国PK有利エリアの北領“極寒の地グランドシャリオット”。
そしてさらに!
地図のど真ん中には停戦期は基本的には誰であっても不可侵領とされる“四大交差の地セントラル”が存在している。



まぁ、つまり地水火風の有利属性があるエリアとぉ……
真ん中はその力がぶつかって相殺されるから無属性エリア、ってことよね。
敵陣、“秩序国(コスモス)”は魔法の国ではあるが、普通のゲームと違ってよくある六属性概念の下に魔法が使えるわけではなく、プレイヤーの魔力の根源は、女王“カサブランカ”がもたらすものという設定らしい。
つまり、向こうの国の人の魔法は全て“植物”属性、と言えばわかりやすいだろうか?
こちらはこちらで、女王“ゴッドマザー”の聖杯が生み出した宝具というのが武器や各種アイテムの背景設定だから、特に六属性概念があるわけではない。
だが、自由度の高いこのゲーム。各種アイテムを手に入れれば本来のジョブが持つ基本スキルに対してそういった要素を足していくことも可能、というわけである。
向こうの国は“水”や“風”の各種素材が大人気。まぁ、綺麗だしね。
一方こちらは“火”や“雷”といった破壊的な要素を好む人間が多い。
そういうわけで、私が目をつけたポルタ・フォルトゥーナは常に敵領となりやすい。
極寒の地、グランドシャリオットの領地内、つまり水や氷の素材が多い場所だからだ。



敵陣だからドローン破壊されそうでずっと避けてたんだけどぉ…。
飛ばしてみるか……。
そう、ユニーク職はドローンが本体みたいなものだ。
破壊されれば当然自分がデスペナルティをもらうわけで…。



修理費も馬鹿にならない…。見つからないようにしなきゃ。
私は細心の注意を払いながら、初めての敵陣へと、見た目変更済の可愛らしいドール、通称“ルナ”を派遣するのであった。
▼



ふぉぉぉ~。ここが、グランドシャリオット……!
私は機械ごしに初めて見るその美しい光景に感動の声を上げていた。



ぴゃ~~。なんて幻想的……!
さすが泡沫の都なんて名前ついてるだけのことはある!!
こっちにセカンドハウス建てたぁぁぃ~!!
自分がハウスを建てた神秘の森も気に入ってはいるが、それはそれ、これはこれ、である。
物欲は尽きないのだ。



いかんいかん…。舞い上がってる場合じゃない。
ここは敵領…。私の可愛い“ルナ”を破壊されるわけにはいかない。
慎重にいかなくては…!
思わず若干、清水神奈の素が出てしまっている私だったが、自分のほっぺたをペシンっと叩いて活を入れると、再び細心の注意を払って、ポルタ・フォルトゥーナへと“自機”を導いていく。
ゴスロリ風の衣装を纏った小さな人形がふよふよと宙を舞って、雪がはらはらと舞う小道を進んでいくこの姿。見る人が見ればかなりホラーだ。
「どうか、見つかりませんように……」と願いながら、何とか目的地まで辿り着いたルナメラ……もとい、“ルナ”は街の外れに最初に見つけた小さな建物へと滑り込んで、ようやく一息つく。



ふぅ。とりあえず休憩…。
見た目は人形になっている、とはいえ、正体はユニーク職の初期装備ドローンだ。
あまり耐久力はない。移動でかなり動力を使ってしまったので、いったん休ませなければならないわけで、できるだけ人が来なさそうな小さな建物を選んだ、つもりだった。
カタンっ、と背後から音がして、私はかなりびびりながらおそるおそる振り返る。



……。な、なんだ。誰も居ないじゃん。



残念でした、こっちよ。“混沌国(ケイオス)”のネズミさん?



!?
音がした背後に誰もいないことに安心したのも束の間、全然違う方向から凛とした女性の声が聞こえて……。



きゃぁぁぁあ!私のルナぁぁぁぁ!



うっし。捕獲完了。
何だこれ?聞き慣れた駆動音がしたからユニークのやつがこそ泥でもしにきたのか、と思ったんだけど…。
見たことないわね?なんか、気持ち悪いな、幽霊みたいで!



何だとぉぅぅ!?



うわ、喋った…。やっぱプレイヤーか。
ルナを侮辱されて、思わず通信機能をONにして大声で抗議をしてしまった私であったが、すぐに我に返る。
アァ……終わりだ……。ばれた…。
“森の洋館のモニター”に映るかなり気の強そうな、しかしまぁ、何とも可愛らしい少女が、その可愛らしい顔立ちに浮かべるにはあまりにもミスマッチな、実ににやにやとした陰険な表情で、“ルナ”の瞳を見据えている。
ユニークのドローンの特性を熟知した敵国プレイヤーなのは、もう明白である。



残念だったわね!此処が“隠しエリア”と気付いたのは褒めてあげるわ!
だけど、渡さないわよ?此処は私の“隠れ処”なんだから!



か……隠しエリア……?
わ、私はただちょっと動力の回復をしようと……



……え。
違うの?といった怪訝な様子で、桃髪の少女が首を傾げている。



………………。墓穴掘った、私?



……はい。



…………。くっ…。私としたことが…。
長めの沈黙の後、ものすごい悔しそうな、まるで苦虫を噛みつぶしたような表情に、少女の顔が一瞬で変わって。
感情豊かな方だ、と私は思わず笑ってしまう。



ふふふ……、いいことを聞きました。



……本体を抹殺する方法って……ないかしら。
やっと見つけた“誰も知らない”場所だったのに…。



待って待って、怖い怖い……!
情報を知られれば、レアもの狙いのプレイヤーが押し寄せてくるのは、まぁ、ゲームの中の摂理、というものだ。
光を失った冷たい瞳で今にもルナを分解しはじめそうなこの少女、どうやら、何か“隠れ処”を必要とする事情があるらしい。



あ、あの……!
私、誰にも言いません!なので、ルナの……
えっと、このお人形なんですけど…!
この北領での活動、見逃してくれたり……しませんか!?



は?敵国のネズミを見逃せって?何の冗談よ?



うっ…。お、お願いします~。そこを何とか……!
私、“秩序国(コスモス)”に攻撃したいわけじゃないんです…!



…………?じゃあ、何しにきたのよ。



どうしても!!
秩序のエリアの家やドールの素材が!!欲しいんです!!!!!
私は、目の前の少女に向かって、必死に自分の目的を叫んでいた。
▼



な、なるほど……?つまり、あんた、ハウジングしかやってない……わけ?
信じられない……といった表情の桃髪の少女、ネリネというらしいが、彼女は今、私の可愛いドール、“ルナ”をその膝に置いて、火がくべられた暖炉の前のロッキングチェアーをゆらゆらと揺らしながら、くつろぎ始めている。
なんて素敵な光景だろう……あぁ、可愛い、が溢れてる……。
ばれたら盛大に怒られそうな邪念を一瞬その頭に浮かべながらも、そんなことより何とかドローンの破壊を免れたい私は、顔だけは可愛いものの、ものすごく腕が立ちそうなこの少女に攻撃の意志がないことを必死でアピールし、ルナに附属する戦闘行動の要素を彼女の目の前で次々にOFFにしてみせることで、何とか取り急ぎの信頼を勝ち取って、今に至る。



はい、そうなんです…。
でも、こっちの国にはあまり可愛い製作ができる素材がなくて…。
ほんと、死活問題なんですぅ~~~~!!
何でなんですか、ミカナギさぁぁぁあん!!厳しすぎますぅ~!(泣)



お、おぅ……。ど、どんまい。
泣きわめき始めた私の分身、ルナを見て、明らかに戦闘にしか興味がなさそうな桃髪の少女が、引いている。



……ぐすっ。なので……この、攻略情報に載ってた
“ポルタ・フォルトゥーナの秘宝”……を今日は探しにきたんです…。



なるほどね~。いろんなのがいるんだな。ゲームって。
私が戦闘に興味がないのはわかってくれたのだろう。
目の前の彼女からは、先程までの好戦的な雰囲気がすっかり消えている。



ま、そうは言っても、結局、この人形自体を見なかったことにして
放逐するくらいしかできないわね。ここも知られてしまったし。
悪いけど、あんたが二度と来たいと思わないように、
ここのお戯れ要素、全部回収するっきゃないわ。今から。
はぁ……めんどくさ。



……クリア済の場所にしちゃうってことですか?



そゆこと。
あーぁー、クリアさえしなければこの暖炉、便利だったんだけどな。



火をくべた人だけの、レストエリアになる……んですよね。



そ。普段は何の変哲もないただの“家”。
でも、ここの隠し要素の発動には複雑な手順があって、
まずはこの暖炉に火をくべるのが第一工程になっている、ってわけ。
残念そうにふて腐れているこの少女が言っている第一工程というのは、つまり、マッピング行動だ。彼女が暖炉に火をくべた瞬間から、私にもここのエリア名が表示されるようになったのは言うまでもない。



“リリスの生家”。誰でしょうね、このエリア名になってる女の人。



ミカナギの“過去作”の登場人物でしょ。
“北方にて、星の滅びを生む者あり。
其は方舟にて、かの旅路へ、我らを導け。”
……かつて人類の滅亡、星のエネルギーの枯渇。
その原因を創った科学者の女、リリスは、自らの罪を清算するべく、
人が生きられない場所となってしまったその原因、
自らが発明した“機械人形”に魂を移して生き長らえ、
主人公と共に、その命を以て、“星を正常化する旅”に出る。



へぇ~……素敵なお話……。
じゃあ、ここ、そのリリスさんが生まれた場所、だったんですかね。
お詳しいんですね?



このゲームやってて知らないあんたの方がおかしいのよ。



うっ…。すみません…。ミカナギにわかで…。



はぁ…。アンタがここを選んだのは、なんというか……。



……?
ネリネが何とも言えない表情でこちらを見ていることに気付いて、私はその意図がわからず首を傾げる。



今の話聞いて気付けないのも、ド初心者~って感じ。
話、聞いてた?“機械人形”を創った女の生家、よ。ここ。



…!! つまり、ポルタ・フォルトゥーナの秘宝……って……。



そういうこと~。多分、このゴッテゴテのゴスロリ人形みたいな、妙なアバター?
ここに大量に眠ってそうね。



…う、うゎぁぁあぁぁぁあ!!ね、ネリネさん……!!
お願いします…!!譲って!!!ください!!!
戦闘にしか興味ないんですよね!?要らないでしょ!?



え~、どうしよっかな~。
こっちの国の人間ならともかく、敵国の人間にタダで譲るのはな~。
少女が明らかにニヤニヤしている。面白がっているとしか思えない。
な、何か彼女に交換条件を……、私の頭がフル回転を始める。



はっ……!こ、こういうのはどうでしょう!?



?
彼女のこれまでの言動を思い出して、そして私は、思いついてしまった。



私のハウス…!!私がログインしてる時はいつでも!!
ネリネさんも使えるようにする!!というのは……!
その……交換条件には……なりませんか……?
彼女は秘宝が欲しいのではない。誰にも見つからない場所が欲しいのだ。
ならば、私の“家”は打ってつけなのではないだろうか。



……。“混沌国(ケイオス)”に私を招こうっての? 非国民すぎでは?



うっ……。や、やっぱり、ダメ……ですか…。
そ、そうですよね……。しゅん。



……。あははははは!いいわ。面白そう。その案、乗った。



!! や、やったぁぁぁぁ!ありがとぉぉぉ、ネリネちゃぁぁあん!!



……!? なれなれしいわよ、この裏切り者め……。
驚いた後、呆れたようにそう言う彼女の細い膝の上で、私はルナをくるくると踊らせて。
それからこの隠しエリアを彼女と一緒に攻略し、そうして“敵国の少女”と初めてのフレンド登録をしたのだった。
まさか、この後、彼女が“秩序一の問題児”と呼ばれる敵国のトッププレイヤーだと知る事になろうとは、この時の私は想像だにしていなかったのだけれど。
それは、また別の話。
ガーディアン BERG(ベルク)の場合……
私は素材蒐集の鬼だ。
“混沌国(ケイオス)”の女王ゴッドマザーの聖杯が生み出す宝具。多彩な武器種。
そんな設定に惹かれてこのゲームを始めた私は、いつのまにやら、闇市にありとあらゆる武器を卸す“武器商人”と化して久しい。
元々リアルでも伝統工芸の職人で、自分の作った“作品”を誰かが使っているのを見るたびに、心が満たされていくのを感じる日々だ。
ロンチ以降暫くは、ただただかっこいい武器や防具が欲しくて、毎日のように“混沌国(ケイオス)”の各所を巡って、素材狩りに明け暮れていただけだった。
だがその途中で、この国のプレイヤーの戦力強化を目的とした“闘技場”や、大工房“ブラックスミス”を立ち上げる猛者達が出現し始め、かの女王からの特殊クエストをクリアしたそんな彼らの力によって、最初はどこもかしこも荒れ果てていたこの“混沌国(ケイオス)”にも、統率組織の仕組みが初動から充実しているであろう敵国とはまた違った、混沌らしい協力体制が築かれていったのだ。
彼らはすごい。そう思った私は、まったく人と関わらない方針を少し改めることにして、そして磨いてきた素材狩りの技術と知識を以て、この国に貢献し始め、今に至る。
だが、ここに来て少々問題が発生している。



新しい狩り場が……もう、ない……。
そうなのだ。このゲームには領土の概念があり、私の所属するこの“混沌国(ケイオス)”は東に位置する砂塵の大地アルデバランと、南に位置する灼熱の地フォーマルハウトを自陣とするわけだが、武器や防具の素材はだいたいがモンスター由来となる為、粗方のダンジョンを周り尽くしてしまって、とうとうそれだけでは飽き足らず、北領グランドシャリオット、まぁ、要は敵国の占領エリアなのだが、そこでのPKまで始めてしまったのである。
さすがに完全敵国領となる西領ファータ・クーラにまで押し入るのは難易度が高すぎた為、西側の素材の入手は不可能かと思われたが、それなら敵国のプレイヤーを狩って剥ぎ取ればいいだけのこと……と気付いてしまった。
もはや、敵国の人間が、美味しい素材にしか見えなくなってきている。
そして、最近はただ知っている場所を巡るだけのルーチンに入ってしまった、というわけだ。



これでは、つまらない……。
ゲーム開始当初に感じた、新素材を見つけた時の快感。
またあれを感じたかった。だが……。



……素材の産出場所の情報がないんだよなぁ。
そう、武器や防具の製作リストの表示が“未入手”となっているものはまだあるのだが、残念ながら記載されている素材がこの世界のどこにあるのか、わからない。



ミカナギのゲームだし、隠しエリア、あるんだろうな…。
実際、数多の狩り場を巡っていて、違和感を感じる場所は多数存在するのだ。
だが、探索してみてもだいたい何も起こらず、である。
頭を捻るのは、あまり得意じゃない。



ならば……もう、ここしか……。
ひとつだけ、そこに素材があるとわかっていて、挑戦していない場所がある。



四大交差の地……セントラル……。
そう、公式大規模PK戦でしか解放されることのない特殊エリアだ。
停戦期になると該当エリアを徘徊するモンスターが全て異常な強さになってしまい、首都に辿り着くだけでも一苦労。
さらにその首都、中央都市ザラスシュトラに至っては、街に侵入したその瞬間から、どこにいるかも定かではない、『エデン』と呼ばれる強力な守護獣によるプレイヤーへの精神干渉が始まる。為す術も無くありとあらゆるデバフが一定時間毎に付与されていき、最後には“死の宣告”が発動する。



意地でも大規模戦に全てのプレイヤーを巻き込みたい制作者の意図を感じる…。
ソロプレイは推奨されていないのだろう。だって、オンラインゲームだ。
だが、これはミカナギ製のゲーム、でもあるわけで。



不可能では……ないよな。おそらく。
そう、彼のゲームに不可能はない。とんでもなく高難易度なだけで、やりこめばソロでもクリアできる仕様になっているはず、とそう聞き及んでいる。



挑むか。
謎の使命感に駆られて、とうとう私はセントラルへの侵入経路を常時確保する、という“武器商人”としての難題に向き合い始めるのであった。
▼
私は今、“闘技場”の主人、アヤの許可を得て、彼女の所有する広大なバトルフィールド、“巨人の戦跡地”から比較的安全なルートでセントラルエリアへ侵入している。
“人民居住区アルタイル”
――エリア名が“街”に切り替わって、私は少しほっとしていた。



停戦期のセントラルだけあって、敵国プレイヤーとの遭遇はないものの……
やっぱモンスターが桁違いに強すぎる…。
さすがにザラスシュトラまでは侵入できそうにないな、これ…。
アヤはもちろん、アヤから話を聞きつけたであろう大工房の技師長、エドからも大量に支援品をもらったのだが、それらが既に半分ほど減っている。
セントラルエリアの素材狩りを停戦期にも敢行しようなどというのは、少々自殺行為であるからして、挑戦したい、と相談した際、2人はいったん何とも言えない顔をした後、それでも、今後の自国の利益になると判断したのか、私を全面支援してくれることになったのだ。



ヒーラーが居れば……。
誰も居ないと思って、私は思わず弱音を吐く。
そう、“混沌国(ケイオス)”にはヒーラーがおらず、戦闘中の自己回復は全て自己責任だ。
だが、ただでさえ強力なモンスターを何体も連続で相手にしているわけで、こうなってくると薬品を割る時間すら惜しい。
敵国にはヒーラーが居るが、だがしかし、先方もこちらのエリア攻略に乗り出していないということは、今度は逆に強力な前衛職が足りないのだろう。
騎士職、つまり剣を扱う職はあるものの、あちらの剣職は明らかに後ろから支援してもらう前提のスキルが多いのは、PK戦などで彼らに奇襲をかけるとよくわかる。



……敵国の協力が欲しい、か。このゲームでは夢のまた夢、だね。
まぁ、結構貴重な素材はここまでのモンスター狩りで手に入ったし、無理せず引き上げるか。そんなふうに思って、休んでいた小さな住居のソファから立ち上がった私は、違和感を感じて警戒態勢を取る。



誰だ。そこに居るのはわかってる。出てこい。



……。あぁ、バレちゃった?
美しい少女だ、と思った。長い桃の髪に翠の瞳。その瞳を少し自嘲気味に伏せながら、彼女は堂々と私の前に歩み寄る。圧倒的な威圧感。“勝てない”と私の中に警告信号が鳴っている。



そんなに緊張しなくていいわ。貴女を攻撃する気はないの。楽にして。



……情けをかけるのか?
武器すら構えようとしない少女に、私は内心かなりの冷や汗をかきながらもそう尋ねる。
少し、屈辱だった。これでもかなり、PKは強い方なのに。
問われた彼女はというと、少し驚いた顔を見せた後、優しげに微笑んで、それから……



……ここまで苦労して狩った貴重素材、全てロストして死にたいなら、お相手するけれど。
違うでしょ?貴女、“怯えてる”もの。
全てを見透かされている。図星を言い当てられた私は、彼女に向けて構えていた自慢の大剣をそっと降ろすと、ソファーに再び座り込む。



…話がわかる人でよかった。
臨戦態勢を解いた私を見て、少女は嬉しそうに微笑むと、私の座っているものとは別の、低い机を挟んで反対側にあったソファーに腰掛ける。
随分とお上品で、優雅な立ち振る舞いだ。リアルのお育ちがいいのだろうか。
そう思わせるほどに所作の美しい彼女が、どこからともなく出したアイテムで紅茶を淹れ始めて、そしてまだかなり緊張していた私にティーカップを差し出した。



どうぞ。そちらにはないんじゃないかしら、こういうの。
随分消耗してるみたいだから。きっと身体が休まるわ。



……あ、ありがとう。
貴女は、“秩序国(コスモス)”の方か? かなりの手練れとお見受けするが…。
それにしてもよくザラスシュトラを越えられたな。



私はリ……あぁ、いえ、“ネリネ”。
ご想像どおり、“秩序国(コスモス)”所属のヒーラーよ。よろしくね。



いや、よろしくされても……。



あら、敵国の人間は、嫌い?
ヒーラーを所望されていたみたいだったからそうじゃないのかと。



……聞いていたのか。



えぇ。聞こえちゃった。だから、こっそり様子を見てたんだけど。
気付かれちゃった。びっくりしたわ。強いのね、貴女。



……嫌味か?



いいえ。純粋に、本当に驚いたのよ。



……そうか。なら、その評価は素直に受け取っておくよ。
それで?目的は、何だ?
まさか何も無しに、歓迎してくれてるわけじゃないだろう?



……ふふ。えーっとね。“人”を探してるの。



人?こちらのか?



そう。クリアの“鍵”を。



……完全攻略狙いか。合点がいったよ。道理で、かなり強そうなわけだ。
……なるほど?人材の引き抜きでもするつもりか?
残念ながら私は国を裏切るつもりはないよ。お世話になってる人もいるしな。



そんな物騒な話じゃないわ。
私ね、“全領土占領”がクリアフラグだとはどうしても思えなくて。



……それはまた、突飛な話だな?
何を言い出すかと思えば、目の前の美しい所作の少女は、なんと全プレイヤーの仮説を真っ向から全否定と来た。
ド廃人はその思考も随分とぶっ飛んでいると見える。



パ……、あぁ、えーっと、違う。ミカナギさんがね。
そんな単純な条件でクリアさせてくれるわけないと、思うのよね。
これまで常に余裕をその表情に湛えていた少女の、キラキラと輝く翠瞳が途端に曇る。



すまない、私はあまりその、ミカナギの前作は存じ上げないのだが……。
そんなにひねくれてるのか?いつも。
少女の顔があまりにも不満げだったもので、そういった予測が立ってしまって、私はおそらくミカナギのゲームに詳しいであろう彼女に、そう尋ねてみる。



ゲームによって様々よ。だけど、今回は……。
絶対に……ひねくれモードなはずなのよ…。
もう……。ほんと、二人とも負けず嫌いなんだから…。



……ふたり?



あー、いえ、こっちの話よ。それでね。
そちらのプレイヤーに“特殊”な子って居ないかしら。



……。思い当たる節が多すぎて……。
彼女の提示した条件に当て嵌まる人間を思い浮かべようとしたものの、次から次へと自国の変人の顔が浮かんできてしまって、私は複雑な想いに駆られながら言葉を濁す。



……く、苦労してるの、ね……?



あぁ、いや、そういうわけではないのだが…。
癖の強い人間ばかりでね。もう少し詳しい条件はないのか?



うーん…。例えば、“混沌国(ケイオス)”らしくない人、とか。



……あぁ。一人居るね。有名なのが。



誰!?
先程まで落ち着いた雰囲気を湛えていたはずの少女が、年相応の子供らしさを垣間見せて、食いつく。



ロゼ。国内一の弱者だ。お人形遊びの方が似合いそうなかなり可憐な子でな。
おそらく秩序の方が合っているだろうに。
おかげさまでいじめられることも多いみたいだ。可哀想に。
泣き虫ロゼなんてあだ名が付いているんだが、なぜだかそれでもずっと混沌でプレイしている。



なるほど……。ロゼ…。



そんな弱者を探してどうしようっていうんだ?
貴女の考える“クリア条件”とは?



……困ってる人を……助けることなんじゃないか、と思うの。
敵、味方、関係なく。



……この殺伐極まりないPKゲームでか?



うん。言ったでしょ。ひねくれモードだって。
それに、“真のクリア者”が出れば、ってことは、
完全一人勝ちもできる条件なんじゃないかな~?って。



……つまり?



第三陣営を築いて、そこの女王になる!……とか。



……あはははは!なるほど。人望を得て、二国の女王すら打ち倒せってことか。
それはかなりの難題だが……あり得ない話ではない気がするね。
私はいったん全領土占領の方に賭けるつもりだが、貴女の事情は理解した。
……こちらの国の弱者の情報を流せば、見逃してくれるか?



……! お願いできる?



あぁ、利害は一致している。
何せ貴女のような者がうちの国の者まで育ててくれようというのだろう?
私には何の損害もないからね。



あら、そのうちその子達が牙を剥くかもしれなくってよ?



第三陣営の女王に傅いて、か?そうなればそれはその時。
お手並み拝見といこうじゃないか。



ふふ、言ったわね。二言は無しよ?
こうして私は、四大交差の地、セントラルで出逢った不思議な少女に、思いつく限りの弱者の情報を教えて、その場を後にしたわけだ。



フレンド登録くらい、お願いしてみてもよかったかもしれないな。
また、会えるだろうか。これまではあまり興味のなかった大規模公式PK戦の時期を少し楽しみにしている自分に気付いて、私は苦笑いしながら自国へと無事帰還し、貴重な素材を大工房へと卸すことに成功したのであった。
アタッカー VINA(ヴィーナ)の場合……
今日も私は人を殺す――。
私の日常は、正直終わっている。仕事、家、仕事、家…。
それ以外の世界が広がることはなく、早云年。
同期は次々に起業だ、結婚だ、とライフステージを変えていくのに、なぜ私だけがこの有様なのか。
ストレスの捌け口として選んだのが、このK or Cというゲームだった。
無法の地、“混沌国(ケイオス)”。そんな文言に惹かれて、私はこの大鎌と共に、此の地に死神として降り立った。



クソ弱ぇ。
今、私は、血まみれでHPバーも真っ黄色になっている瀕死の敵国プレイヤーの頭を容赦なく足蹴にしている。
自分から絡んできておいて、このザマだ。



待ってくれ!何で俺だけ……!!!
そう、こいつらは2人PTで、北領、テルミナの森に狩りしにきていた相手国の騎士と、後衛職の女……である。自分の有利エリアで敵国のソロプレイヤー、まぁ、つまり私なのだが……、を見つけて調子に乗ったのだろう。



あいにく、無抵抗のド初心者を狩る趣味はなくてね?
ほら、まだ青い果実ってさぁ…。クソ不味いだろ?
私はこいつらが採取していたであろうテルミナ特有の青みがかった悪趣味な様相の果実を一口囓ると、そのままペッと吐き捨ててみせる。
足蹴にされた男の顔が歪む。
あぁ、これ、向こうでは結構高価な魔法強化系の素材、なんだっけ?いい気味だ。
元々、この騎士の男は、今、私の後ろでこの凄惨な光景に腰を抜かしてへたり込んでいるどう見ても戦闘レベルの低い若い女相手に、鼻の下伸ばしながら狩りをしていたわけだ。
あぁ、ちなみに、わざとじりじりとこの男を大怪我させて徐々に痛めつけているのは完全にわざとである。
弱っちすぎて殺す気にはならないが、この手のクソ女も、私は大嫌いだ。



明らかにこの森に来ていいレベルじゃない女連れて、
いちゃいちゃと貢ぎ物集めて、大騒ぎ。
おかげでこっちは獲物を探す手間が省けて助かったがなぁ。
しっかしまぁ、自ら敵国プレイヤーに絡んで返り討ちたぁ……
だっせぇ。デートならおまえんとこの“ママ”のお花畑でやってろよ。
ママ、とは、敵国の女王、カサブランカのことである。
なんだあの女王。自分は戦いもしねぇのに、いつも後方で偉そうな演説ばっかしやがって。
NPCだとわかっていても、うっぜぇのなんの。



ず……ずるいだろ!?
おい、おまえ、ちょっとは回復しろよ……!ヒーラーだろ!?



うわぁ……聞いたか、女~?助けてくれってよ。
どうする?これ、彼氏だろ~?回復、するか?いいぞ、私は?
まぁ、スキル使った瞬間、私はおまえにも容赦なくPK仕掛けるけどな?



し、しません……!か、帰ります!私!
こんな最低な人だと思わなかった……!
クソみたいな男性騎士のそんな発言に、先程までへたり込んでぷるぷると震えるだけだった女の顔色が明らかに変わり、そのまま勢いよく立ち上がると、なんと彼女は臆することなく、私が足蹴にしていた男のもとまで近寄って……
バチン……っと大きな音が不気味なくらい静かな森に響く。
絵に描いたようなビンタだった。
女はそのまま、彼女では購入できそうもない転移アイテムを懐から取り出すと、



さようなら……!
そう、この男に捨て台詞を吐いて自国へと帰ってしまった。



……ははっ。傑作だな。あれ、かなり高ぇよなぁ?
いざとなれば君だけでも脱出するんだ!……とか言って買ってやったんだろ?じゃねぇとああいう女ってついてこねぇもんなぁ?
どうだ~?実際に見捨てられた気分は~?



もう、早く殺してくれ……。(泣)



はは、ご愁傷様。じゃあな。
そう、この男に捨て台詞を吐いて自国へと帰ってしまった。



はぁ、飯ウマ~。これだからPKはやめられない。
にやにやしながら戦利品を回収して、そしてそれから。



で?出てこいよ、何こそこそ隠れてんだよ。
途中から後ろでずっとひそひそと、話し声が聞こえていた。



ひぇ。き、気付いていたのか。ブラッドサースト…。
相変わらず、容赦のないことで……。



あの騎士の人、メンタル大丈夫かな…。



ちょっと可哀想ですけど、でも、あれは振られても仕方ないと思います。
“味方”だ。しかも2人までは顔見知りである。



大工房の機巧製作馬鹿に……、ロゼか。
そっちのクソガキは見ない顔だな。何しにきた。
殺す価値もない。そう判断した私は、再び彼らに背を向け、戦利品の回収を再開する。



いやぁ、まさかヴィーナ女史…。君がロゼ嬢と“フレンド”だったとは…。



えへへ…。実は、前に、助けてもらったことがあって……



人は見かけによらないな?
そう、このロゼとかいう女、国内一の弱者と揶揄され、実際ありえないほど弱いのに、なぜだかPKエリアでよく出逢う。



まだ懲りてないのか。で?ファータ・クーラの大地は拝めたのか?



全然ダメです。



……マジかよ。何してるんだよ。



見た目にそぐわぬアグレッシブさ…。俺は今、君を改めて尊敬したよ、ロゼ嬢…。
ファータ・クーラへ行きたい。そう懇願されたのはもういつのことだったか。
カサブランカのお膝元ということもあって私でも生き残るのはなかなか厳しい場所だというのに、無謀にも程がある。まぁ、珍しく面白いことをするやつがいるもんだ、と興が乗ったので、その時は南領フォーマルハウトの大都市、スルドまで護衛してやったんだが。



もう“秩序国(コスモス)”にキャラ作り直した方がいいんじゃないの、おまえ…。



嫌ですよ、こっちがいいんですぅ~……。
それ以来、妙に懐かれてしまっている。



はぁ?相変わらずのドMだな…?まぁ、好きにすればいいんじゃないか?
で?今日は何の用だ。



あ、はい!その、実は、また護衛をお願いできないか、と思いまして……!



護衛……?おまえなぁ…。私は傭兵じゃねぇんだぞ…。



そ、そこを何とか…!もちろんお金はお支払いします…!



は?おまえが?ていうか、誰だよ、クソガキ。



うっ……えーっと……。



まぁまぁ…。ヴィーナ女史。話だけでも聞いてやってくれないか。
この少年の引退がかかっている。それに…。



……?
いつもやかましすぎる大工房の機巧製作馬鹿が、珍しく少々言い淀んで。
それから、彼は私にとっての“宿敵”の名を口にした。
▼



シストマキャヴェリと取引ぃぃぃ!?
粗方の事情を聞いた私は、思わず叫んでいた。
そう、これは、憎き敵国の女王の犬の異名である。



あんのフォーマルハウトの妖怪め…。
レッドネームしか殺さないとかいうあの気取った精神、うっぜぇのなんのって。
いっつも澄ました顔しやがって。何様なんだよ。あぁ、聖女様かよ。



あ、あはは……。でも、その先方のPKKスタンスが今回、問題でして……。



混沌はだいたいみんなレッド歴あるからなぁ…。ロゼ以外…。



うっ…。わ、私もいつか……!立派に人を!殺して!!みせます!!



やめて……、解釈違いだよ…。



……?



まぁ、そういうわけだ。常時レッドではない我々とはいえ、当の本人、アリス少年は結構なPK戦歴を持っているし…。
俺も、それなりに売られた喧嘩は買っているし…。
“洗礼花(イセミナ)”の提供者、クレハ嬢に至っては“秩序国(コスモス)”にとっては害敵と言って相違ない存在だろうから……。



まぁ、のこのこ出ていったら、全員ぶっ殺されるだろうな。
あいつは強烈だぞ。常時自己再生上位魔法のかかった化け物だと思え。



うへぇ……ヒーラーなのか……。
チェーンぶん回してくるとか聞いてたからてっきり攻撃職の人なのかと……。



実は、先程連絡が来たんだが、アヤが向こうの騎士団長と内密に話をつけてくれてね。
先方も例の初心者の女性のイセミナ、“ハイドランジア”を確保したい、とのことで、一応会談の場は設けてくれることになったそうなのだが……。



……?ならよかったじゃないか。私、要らないだろうそれ?



いや、その……
“PKモードに入ったサムサラを止めるのは、私にも無理だ!”だそうだ。



……。何で、そんなやつが騎士団長なんだ。
意味がわからない。一番強いから団長なんじゃないのか…?
明らかにそう書いてある私の顔を見て、エドが苦笑いをしている。



さらに話には続きがある。
騎士団長、ライザというらしいが、彼女の話ではサムサラを唯一止められるプレイヤーが一人だけ居るらしい。
その猛者と、そしていざという時の彼女の援護用に、騎士団から何名か同行してもいいか?とのこと、だそうだ。



へぇ……?あのマキャベリを?それは少し興味があるな。



!!



じゃ、じゃぁ……!



高くつくぞ。クソガキ。



あ、ありがとうございます!
金ならちゃんと払うよ!全財産失ってでも取り返したいんだ…!
こうして、私は新たな強敵の存在に興味を惹かれて、
クソガキ、もとい、アリスの“仮初宝(ペルソナ)”奪還に力を貸すことに決めたのだった。
▼
私達は今、セントラル中央都市、ザラスシュトラで強烈なデバフと戦っている…。



おい、よりにもよって、なんで、ここなんだよ…。



いや……だって、これ以外に選択肢なくて……。



……まぁ、他の場所だと、絶対にどちらかの有利エリアになってしまうから……なぁ……。



マキャベリと互角に渡り合えるとかいう、例のプレイヤーからの提案、らしくてね。
そもそも、ここに辿り着けないような人間を彼女の前に連れてくるな、だそうだ。



守りきれない……ってことですかね…。



……うぅ……。気持ち悪い……。毒が……。
国内一の弱者、ロゼが此の地特有の謎めいた神、通称“エデン”からの精神干渉に、早くもかなりげっそりした様子を見せている。
アヤとエドからありったけの防護装備を付けてもらい、定期的に薬品でHPの回復もしているようだが、それでも元々のレベルが低すぎるわけで、こうなるのは当然の摂理である。



何でついてきたんだよ…。
言っておくけどこの停戦期のセントラルでおまえみたいなのを守りきる余裕はないからな…?死んでも恨むなよ?



こんな機会滅多にないので、入ってみたかったんですぅ~~。
いつものことなので、全然死んでもかまいません~~(泣)



いや、リスポーンに慣れすぎだろ…。
相変わらず、無謀である。



まぁ、良い案だと思うよ。私は。
ここならいくらトッププレイヤーでも下手なこと考える余裕はないし。
それに問答無用のタイムリミットもある。
さっさとやることやって帰らないと、全員“死の宣告”を喰らってあの世行きだ。



いやぁ……しかし、不気味だな。人っ子ひとりいない大都市というのは…。



おっと……。おしゃべりはここまで。騎士団の皆さんのお出ましだ。
約束の時間きっちり。西側の大通りから賑やかな人の声が聞こえてくる。



そんな警戒しなくても、何もしません。



あんたの言葉は、信用ならなぁ~い…。



おまえも全然信用ならないよ…私は……。



団長命令っていうからついてきたけど…。何で私まで……。



あはは……。奇遇ね、まったく同意見よ……。
あれが、例のプレイヤーか。
動きにまったく隙がない。かなり強そうだが、PKerではないのだろう。
もったいない。殺し合いに興じてみたいものだ。
私は初めて見る長い桃髪の女にそんなことを思う。



ちゃんと人数も、守ってくれましたね。よかった。



“洗礼花(ハイドランジア)”、頼むぞ…おまえだけが頼りだ…。



さぁ、さっさと用事済ませて帰ろう。私は死の宣告喰らうのはゴメンだよ…。
秩序の皆さん、こちらだ!……大丈夫か!



おぉ~?君がアヤか!?いたいた!よかった合流できて。先日はどうも!



初めまして、リエです。あ、戦場で見たことある人ですね。
なんか、変な感じします。



“混沌国(ケイオス)”の人とまともに話すのは、私も初めてね。
初めまして、カナンと言うわ。



おぉ、副長さんか。戦場では何度かその剣の餌食になったが、
こんなお淑やかな方だったとは…。俺はエドだ。会えて光栄だ!



あら、あの大怪鳥の中の方…。ルビアを連れてこなくて正解だったわね。



……!?聖母マリアのことか!?伝えてくれ!俺のあれは大怪鳥などではなく、“ファーヴニル”という素晴らしき名があr……痛い!殴らないで…!
話が長くなりそうなところで、



その話は今、どうでもいい。黙っとれ。
闘技場の主人、アヤが青年にげんこつを落として強制終了させる。



……まさかおまえとこんな形で会うことになるとはね。



あらあらぁ。ヴィーナさん、こんにちは。元気にしてましたかぁ?
残念ですけど、今日は貴女のお相手をしてる場合ではなくてですね~。



あぁん?!



だ、だめですよ、ヴィーナさん…!抑えてください~!



ナチュラルに人を煽るのはおまえの悪い癖だ、サムサラ…。
案の定一触即発、といった雰囲気になり始めた因縁の宿敵、シストマキャヴェリとブラッドサーストの邂逅に全員がヒヤヒヤし始めたところで、事の発端となった少年が本題を切り出しはじめる。



シストマキャヴェリ……いや、サムサラさん?
僕の“タンザナイト”、返して。



あらあらぁ。こんな小さな子のものだったんですね~?
いいですよぉ~。その代わり、うちの子の“青いお花”。
持ってきてくれました?



あるよ。これで合ってる?
少年が無防備にサムサラの前にその花を差し出し、そして彼女はそれをひょいっと取り上げる。



はい、たしかに。さ、では帰りましょうか。



ちょ……!僕のタンザナイトは!?



あら、これは戦争でしょう?
どうして私が“敵国”の利になることをしなくてはならないの?
先程までの優しそうな微笑みが、その顔から消えていた。
少年が思わず後ずさって、そして泣きそうな顔で俯いてしまう。



はぁ…。サムサラ……。おまえには情ってもんがないのか……。



おかしなことを言いますね?団長。
ヴェロニカを苦しめた彼らに、情けをかける必要、ないでしょう?
あの子、このお花がない間、どれだけ苦労したことか。
まぁ、取り返したいのなら、かかってきてもいいのですよ?
それがこのゲームのルールでしょう?
ほら、タンザナイトならこちらに。
私はお約束どおり、自ら武器は抜いておりませんが、どういたしますか?
彼女の静かな怒りが、その場の空気を支配する。



……。
相変わらずの腐れ外道だ、と思いながら私は見知ったPKKの女を眺めていた。
だが、セントラルでの残り活動継続時間も少ない。
無駄なデスペナルティは避けたい。それに、この少年に頼まれたのは、あくまで護衛だ。
彼女が攻撃を仕掛けてこない今、わざわざこちらから斬りかかって取り返してやるほどの義理があるわけでもない。



戦闘しないのでしたら長居は無用かと思います。
皆さんも早く引き上げた方がいいですよ。
このエリアの特性を知らないわけじゃないでしょう?
幼女姿の女が無慈悲にそんなことを言って、帰り始めたサムサラの後に続く。



ご、ごめんなさいね…。
私達じゃ彼女から無理やり所有アイテムを奪うのは無理で…。
申し訳なさそうに、騎士団の副長の女がアヤに話しかける。



……まぁ、彼女の言い分はわからなくもない。
武器を抜かないでいてくれただけでも、譲歩してくれたのはよくわかる。



お、俺達で勝てるなら挑んでみたくはありましたけどね。
あれはちょっと……ファーヴニルなしでは無理だ。すまない、少年。



……申し訳ない、私もああ言われると弱い。
君達はむしろ“ハイドランジア”を探して持ってきてくれたんだろうが……
ヴェロニカも、その、引退を考えるほどに悩んだだけに、
サムサラの怒りも、無視できないというか…。



ま、実力を付けて、挑めばいいだけじゃない?
私ならそうするけどね。しないなら、帰るしかないでしょ。



……。
場の空気が沈み、お開きになりかけたその時だった。



待って下さい……!
青髪の少女が、サムサラに向かって銃を抜いて、そして撃ち抜く。



!?



……あら、お相手をした方が、いいかしら?
貴女、お名前は?
難なく彼女の攻撃を防いだ秩序国最凶と謳われる聖女が、ゆっくりと彼女に向かって向き直る。



ロゼです!!一戦、お相手願えますか!



い、いいよ、ロゼ。無理だって。



だって……!せっかくここまで来たのに……!



ロゼ……。私が何と呼ばれているか知っている、のよね?



はい!勝てる気はしません!
でも!何もしないで帰るほど、諦めもよくありません!



……そう、ならば、一思いに。
奪われた者の痛み、その身にしかと刻みなさい。
彼女が武器を構えて、そして、ヒーラーの最上級攻撃魔法がほぼ無詠唱で放たれる。
動くことすら許されず、光に貫かれる。また、何もできずにリスポーンだ。
そう思ったロゼがその細い両腕で自分を守ろうと防御態勢を取り、目を瞑る。
直撃を覚悟したロゼだったが、キーンっと、何かが金属に当たるような音が辺りに響き渡って、そして静まりかえる。
来るはずの“死”が来ないことを不思議に思って、おそるおそる目を開けた彼女の前にいたのは、先程まで戦意喪失していたはずの少年だった。



……いってぇ。なんつー威力だよ。ふざけんな、ほんとにヒーラーかよ。



アリス君……!
大鎌を構えた少年が、何とか聖女からの一撃を防いで、そのHPを若干減らしつつも、彼女の前に堂々と立っている。



何でおまえがそんな必死になってるのか意味わかんないけど。
ここまでされて、当事者の僕が戦わないとか、かっこ悪すぎるんでね。
…………ありがと、ロゼ。



……!えへへ!どういたしまして!援護します!
嬉しそうな、華やかな笑顔がそこには咲いていた。



へぇ…?ちったぁ、根性あるじゃん?あのクソガキ。



これは、我々も加勢すべきか…?



いや、ファーヴニル使えないおまえが出て行っても……ただの的でしょ。



うっ、うるさいな!



私は知らないぞ。
あんなクソガキどもと一緒にマキャベリに一勝しても楽しくねぇ。
そうして大人達が見守る中、少年少女が奮戦を始めるが、やはり相手が悪い。
どんどんと削られていく二人のHPがついに危険域に突入し、そして……。



これで、おしまい……!
少し楽しそうに笑う聖女から、一切手加減のないトドメの一撃が放たれて、少年はせめて青い髪の少女だけでもかばおうと、とうとう敵に背を向けた。
誰もが終わりか、と思ったその時――。



やるじゃん、少年~!あの腐れ聖女相手によく頑張った!



……へ?
守られたのはわかった。だが、守られた理由がわからない。
ロゼをかばって座り込んだ彼女に覆い被さった体勢のまま、少年はきょとんとした顔で、目の前でゆらゆらと揺れる長い“桃髪”を見つめていた。



あーぁ。珍しく大人しかったのにぃ…。



……ネリネ~。
一応言っとくけど、この状況での敵国への助力行為は牢屋行きだからね~。
私はかばえないぞ~。



……なに?どゆこと……?



……仲間割れ?



気にしないでください。いつものことなので。



あの女、相当強いな。
いつのまにか観戦に戻ってきていた敵国の幼女が無表情でそう言って、彼らが「はい?」といった表情でそんな彼女に口々にツッコミを入れ始める中、私はひとり、思わずそう呟いていた。



うちの問題児でね~。規則違反の神、とでも呼んでやってくれ。



……ネリネ?
聖女が少々呆れた顔で、桃髪の少女の名前を呼ぶ。



ヴェロニカの為。まぁ、“仲間”同士の助け合いとしては、
あんたはご立派で正しいんだろうけど~?
悔しかったら自分で取り返せ、ってことでしょ?この小競り合い。
だったら、ヴェロニカも自分でここに来るべきだと思うんだよね~、私。
というわけで、ほら、かかってきなさいよ。雑~魚!
この子の代わりに私が相手してあげるわ。光栄でしょ?
にやにやしながら味方を、しかも、最凶と謳われる聖女を雑魚呼ばわりしながら全力で煽る少女に、主に混沌陣営が唖然とし、「あのサムサラ相手になんてことを……。」と冷や汗をかいている。
だが……。



…………それは!たしかに!
ヴェロニカの成長の機会を奪っちゃったかも!帰ったら謝らなきゃ!
ネリネは!やっぱり賢いね!



……は?



……は?



……は?
雑魚呼ばわりされたことに特に怒るわけでもなく、これまでその身に静かな怒りを湛えて異様な威圧感を放っていた聖女の表情が、まるで少女のように明るくなって、そしてそんな彼女が勢いよく桃色の髪の少女に向かって走り出す。
殺し合いの始まりか……?と身構えた混沌陣営だったが……。



あぁぁぁぁ、もぉぉぉ、うざぁぁぁぁぃ!!!離れなさいよ!!!
戦うんじゃないの!?



戦いません~!あ、はい!あげる!
満面の笑みで桃色の髪の少女に向かって抱きついた聖女……
もとい、ただの懐いた犬のようにその目をキラキラと輝かせたサムサラがそこには居て…。



……うゎ、ちょっ、待……!
急に人が変わったかのように上機嫌の、直前まで殺されそうになっていた相手から、ぽいっ、と青い輝きが少年に向かって投げられた。



僕の、タンザナイト……。
返ってきた“仮初宝(ペルソナ)”を大事そうに握りしめて泣き出してしまった少年に、彼と同じくボロボロになった青い髪の少女が笑いかけているのを見て、桃髪の少女は少し呆れたような表情で笑うと、そのまま西領側へ向かって歩き出す。



ほら、帰るわよ。もうほんとここのデバフやだ。



はーい!ねぇ、ネリネ、ついでにあそこのモンスター狩るの手伝って?
和気藹々と帰っていくそんな二人を追いかけて、青髪の少女が大声で叫ぶ。



あ、あの!!助けてくれて、ありがとうございました!!
ちらっと振り返った桃髪の少女が面倒くさそうにひらひらと手を振り、そして、何も言わずに去っていく。
この時、誰が想像しただろうか。
強者と弱者――。
この実に対称的な少女達が、後に全プレイヤーを巻き込んで“奇跡”を起こす、クリアの“鍵”となることを。
ガンナー ADA(エイダ)の場合……
そして、同じくガンナー ETERNAL ABYSS(エターナルアビス)の場合……
僕は今、非常に困っている……。



ち、違うよ!そうじゃなくて……!



こ、こうですか!?



だぁぁぁ……!何でそうなるぅぅぅ?!
目の前の可愛らしい女の子は、“ロゼ”という。
この国ナンバーワンの弱者、という実に不名誉な称号を得てしまっているこの少女。
性格は非常に優しく、そんな彼女に僕はある日、一目惚れしてしまったというわけだ。
ゲームでは中性的な容姿をしている僕だが、実は中身は男子校に通う中学生だ。
そして、強いお姉さんが大好きである!美脚だと尚、最高だ!
……などと思っていたのだが、歳の近い女の子に優しくされるなんてのは初めての経験で、これはこれで最高じゃないか!と、最近では彼女の戦闘指南を担当していたりする。
ちなみにこの大任、かの“闘技場”の主、アヤ様からの直々のご指名なのである!
みんなはロゼのことをいじめるけど、僕は心が大人だからね。



そりゃぁ、抜擢されちゃうよね~……えへへへへ……



……アビス君?抜擢?



……!いや、こ、こっちの話!
さ、練習を続けようか。君と同職なのも何かの縁だ。
皆から受けたその不名誉な称号、数ヶ月後にはこの僕が変えてみせよう。
エターナルアビスの偉大なる相棒、と呼ばれる未来の君を見るのが楽しみだよ。フッ。
片手でさらさらとした長髪を掻き上げ、キリッとした表情で憧れの少女にそんなことを言って、「(キマった……!)」などと内心喜んでいたのも束の間、その顔をめがけて大量の“黄色い綿毛”が着地し、最終的に彼の頭の上に残った1匹が「ピヨッ!」っとドヤ顔で勝利を伝えている。



あわわわわ……。



…………え・い・だ~~~~~~~~~~???



あは……☆ごっめ~~ん……!失敗失敗~!
後ろで奇妙な“銃”の調整をしていた同職の女の仕業であることは明白だった。
“闘技場”に大量の黄色い鳥が走り出して、辺りがパニックに包まれる。
ちなみにこの黄色い鳥、地味にモンスターの雛であるからして、現在、そこらかしこで戦闘が発生している次第だが、例の不名誉な称号を受けた少女はというと……



やめてください~!!きゃーーー!!突っつかないで痛いです~~!(泣)
集中攻撃を受けて、その青い頭に黄色の毛玉を大量に乗せながら、泣きべそをかいている。



おっかし~な~?1匹発射された後、対象に命中したら
ミニ“ファーヴニル”に即座に成長して相手を攻撃してくれる弾丸……
だったはずなんだけどな……?



そんなもん、僕で実験すな……!!
ていうか、何であの変態技師長の馬鹿げた怪鳥がおまえの銃にまで再利用されようとしてるんだよ!?
ロゼの頭からモンスターの雛たちを払いながら、僕はエイダに抗議を始める。



いやぁ、エド君って面白いよね…!
この銃、“イマジナリーガンブレード”レアドロップしたー!って報告したら
“是非僕の可愛いファーヴニルを君の弾丸のお仲間に加えてくれたまえ!”
って設計図見せてくれてさー。
鳥っぽいな~って思ったから、そのイメージを弾に込めてみたんだけどぉ…。
ロゼちんの声がなんか雛っぽいなぁ、とか考えてたらヒヨコになっちった☆



マザーの秘宝を扱う者なら、邪念を捨てろ……っ!!!今すぐだ…!!
こう、もっとあるだろ!?“ 顕現せよ!漆黒の堕天使よ!”とか、
“征服せよ!蹂躙せよ!灼熱を宿せし我が炎竜よ!”とか!!
何でこんな弱っちいヒヨコの大群が出てくるんだよ!!



え、いや、だっさ…。
さすがガンナーなのに紫蝶演舞(バタフライ・フラツター)とかくそでかボイスで毎回叫びながら激弱なアタッカー武器振り回してるだけのことある…。
ヒヨコパニックの収まらない“闘技場”で、お互い黄色い綿毛を鬱陶しそうに払いながらそんな喧嘩を始めた僕とエイダだったが、ピヨピヨとうるさかったはずの鳥の鳴き声が突如シン……と静まりかえったかと思ったら、そこらかしこの黄色が一瞬で蒸発する。



何なの、この騒ぎは……。
闘技場の主人、アヤの高性能ドローンによる一斉掃射である。



アヤ様……!さすが…!もう!聞いてくださいよ!
エイダがイマジナリーガンブレード暴発させて…!



痛かった……。でも、漆黒の堕天使出てこなくてよかったです……。



やだぁ、ロゼちん~。さすがにそんなダッサいの出すわけないじゃーん☆



ファーヴニルの方がダサいだろ!?マザーに謝れ!このロシアンルーレット女め!!



何だとぉぅぅ!?私が秘宝に選ばれたからって嫉妬しないでもらえる~?!



……。“国内一の弱者”に、“拗らせた厨二病”、そして“ロシアンルーレット”…。
うちのガンナー隊にまともなのは、居ないのかい…。
呆れた表情でやれやれと頭を抱えていたアヤだったが、一呼吸置いて気を取り直したように別の話を切り出すことにしたようだ。
彼女は後ろを振り返ると射撃訓練場の入口の影に向かって声をかける。



ほら、何隠れてるんだい。ロゼならここにいるよ。



……ど、どうも……。



アリス君……!来てくれたんだ……!?
ロゼが嬉しそうに彼の方へと駆けていく。



おぉ~?新入りさーん?やだ~、かっわいー。



な……っ。あ、あ、アヤ様……!?だ、だだだ誰……あれ!?
ロゼと相当に仲睦まじそうな、少々陰気な雰囲気の少年が登場し、僕は動揺を隠しきれない様子でアヤに焦って質問する。



こいつはアリス。今までソロ専門だったそうだが、先日少々手助けをしてね。
もっと強くなりたい、とのことで、これからはこの闘技場に出入りすることになる。
仲良くしてやってくれ。



よ、よろしくお願いします。
……ロゼ……、何か、ボロボロだけど……。



えへへ……。エイダさんのヒヨコさんが全然倒せなくて……。



あぁ……さっきの……。まじか……あれに……。
……その、よかったら、教えようか?



な…な……な……っ。き、君!ロゼの指南役は僕だよ…!
だ、だいたい君はアタッカーのようじゃないか…!
かかかかか勝手なことを!!されたら困る…!!!



……。アヤさんから全然上達しないって聞いてるけど?
教え方悪いんじゃないの?
そもそも同職じゃロゼの前衛になれないだろ。



な、何だとぉぉぉ!?ぼ、僕は、紫蝶演舞(バタフライ・フラツター)を極めし者だぞ!!
前衛もできるに決まってるだろぉぉ?!!



はぁ……?ガンナーなんだから大人しく銃で戦えよ、意味わかんねぇ。



け、喧嘩しないでください~~~!(泣)
出逢って早々取っ組み合いの喧嘩を始めた少年達に更なる呆れ顔を向けるアヤの後ろで。



よし!今度こそ!!
イマジナリーガンブレードに次なる弾丸を込めて発射したエイダが二度目のひよこパニックを生み出して、彼らは再び黄綿の海の掃討に明け暮れることになるのだった。
可憐な少女に淡い恋心を抱いた少年達は、この時まだ知らない。
この後、さらなるライバルが出現し、二人揃って涙を流す日が来ることを。
PROLOGUE
某大学内にて――。



朝陽(あさひ)!朗報だ!



ん~?どうしたの~?よっちゃんがそんなテンション高いの珍しい。



半年前の“K or C”の抽選、覚えてるか?



それのどこが朗報!? く~……思い出すだけで悔しい…。
天下の“ミカナギ”製のゲームだっていうのに、抽選方式で、しかも定員わずか1000名…。
ログイン権さえ買えれば、クリア狙えるのに…!!



はは…ミカナギのゲームでそんな自信満々なのは朝陽くらいだよ…。
この“L.A.N.”ド廃人め…。



うるさいな!いつも恩恵受けてるだろ!?



はいはい、ありがと~ございま~す、天剣の“SHIN”様…!



……その呼び方はやめて。
……で?朗報ってのは?



いやさぁ、実は昨日“HARU”と別ゲーで遊んでたんだけどさ、なんとだな…“K or C”のログイン権……



………え、まさか……?



ふふふ……!ご想像のとおりだ。譲ってもらった!
……じゃーん!(※ドヤ顔)



……!? まじかよ、ずっりぃ……!
ていうか、毎度毎度…その、よっちゃんのL.A.N.フレ…
“HARU”君ってのは……、ほんと何者なんだよ…。



絶対そう言うと思ってさ。 朝陽の分もちゃんとあるぜ?
2枠も余らせてたんだ、あいつ。



……マジで?!!!“HARU”君、神じゃん!!



……交渉してやった俺は?



最高の親友!!



ほんと調子いいんだから、おまえは…



へへへ。……でも、こんなプレミアなのもらっちゃっていいのかな。
HARU君はもう遊んでるってこと?



いや、“俺は諸事情で遊べないんだけど、
できれば早々にクリアしてきてくれない…?”だってさ。
なんか困ってたっぽいんだよな。
で、『天剣のSHIN』を紹介したら2枠目譲渡の話が出てきたってわけよ。



だからその言い方やめてってば…。
でも、ふーん……?HARU君ってミカナギの社員かなんかなのかな。



どう見ても俺らより若いんだけどな、あいつ。
ま、なんかコネがあるのは間違いなさそう。



ファー……いいなぁ。俺もミカナギさんに会いたい…。



はは…ほんと好きだね、ミカナギ…。まぁ、というわけだから、
HARUとしては『早期クリアしてくれればタダでいい』ってことみたい。
朝陽、得意だろ?



あったりまえだろ!ミカナギのゲームなら任せてよ!



OK、じゃあ今日の夜、池袋第13ポータル前集合で。
HARUも来るから直接ログイン権もらってくれ。



了解!やった~!楽しみだー!!
L.A.N.池袋第13ポータル前にて――。



よし、これで譲渡完了、っと。



ありがとう~、ハル君~!!まさか手に入るなんて……!



いいえ、こちらこそ。
叔j……いや、ミカナギ製のゲームの優勝経験者に繋いでもらえるなんて、ありがたいかぎり。



ハルはやらねぇの?ミカナギのゲーム、難しいけど面白いのに。



いやぁ……やらないというか、やれないというか……



……やっぱ、社員さん?



あはは……まぁ、そんなところ。これ以上は守秘義務なんだ、ごめん。



くぅ~、羨ましい!ミカナギさんにファンです!って伝えといて!



はは、機会があれば言っとくね。きっと喜ぶよ。



若いのにすっげぇのな、おまえ。



いや、ただちょっと知り合いなだけで、俺は見た目どおりただの中学生だよ。
さて、そんなことより、K or Cだ。途中参戦になるから、状況、説明するね。



よろしくおねがいします!



基本ルールはいいかな?ゲームの名前のとおりだ。
KOSMOS、つまり秩序と、CHAOS、混沌の2陣営を選べるんだけど、俺が余らせてた2枠は、各陣営、1枠ずつだ。



おぉぅ…。ということは……。



トバリと僕は敵陣営に所属する、ということに…?



そういうこと。どっちがいい?設定するから決めて。



……俺、ケイオスがいい。この、コスモス側の衣装設定、きっつ…。



わーぉ、見事に白基調の正装ばっかりだ。
それに“花”が各自の能力の一部となる騎士団、細かい階級制度…。
最初は必ず下っ端からスタートだけど、命の危険はなさそう。
へぇ、秩序の国って感じ。女性が好きそう…。
たしかにトバリには向いてないかも…。



う……うるさいよ。



……?トバリさん、女の人苦手なの?



うっ…。



ハル君…、そんな真顔でつっこまないであげて…。



……え。あー。なんか、ごめん…?
えーっと…!
まぁ、つまり、秩序側はがっつり法治国家。混沌側は無法地帯、だね。
男女比率もまぁ、シンさんの予想どおりだよ。



……(泣)。
えーっと!なるほど!
混沌側はなんかひとつだけ“秘宝”持ってスタートだってさ!



へぇ。面白いね。それを巧く使ってのし上がれ!って感じかな?
それに、混沌国はPKしても犯罪にすらならないのか。
トバリ……、初動、生き残れる…?
これ、その最初の“秘宝”とやらを奪われたらつらいやつだと思うよ?



が、がんばるよ。この黒ずくめの大鎌ジョブ気に入ったし。
シンほど戦闘得意なわけではないけど、頭脳戦は得意だしな。



OK~!じゃあ、僕は花の騎士だね。
細かい事考えるの苦手だからちょうどいいや。



天剣のSHINさん、だしね。いいんじゃない?



……ハル君って案外さらっといじるよね。(泣)



ははは。かっこいい異名だから、つい。
まぁ、各陣営、日常を過ごす国の特徴の違いはあるけど、今は停戦期だから、どちらにせよ、いきなり2陣営混ぜこぜの大規模戦闘地帯に放り出されることはないはずだよ。



そりゃ助かる。
で、クリア条件は……“女王の願いを叶えよ”?
え?それだけ?



そう。それ以外の条件、何一つわかってないんだ。
で、もうロンチから半年経ったわけだけど、全然クリア者が出ないので『実は終わりのない2陣営の領地争いゲームなんじゃないか』なんて言われてる。



ははーん?ミカナギのゲームでそんなことあるわけない、ってこと?



シンさんは話が早いね。
そう、彼のゲームは必ず“真のクリア者”が出れば終わる仕様だ。



悪かったな、飲み込み遅くて!?



まぁ、そこはほら。僕はミカナギの大ファンだからね!



あはは。まぁ、そういうことだから。
2人には別陣営に所属して、あらゆる可能性を探りながら
『完全クリア』を目指してもらいたいってわけ。



なるほどね。
普通に考えれば、相手の領地を完全に奪いきればクリアできそうだけど…。



今の2国の領地取得比率は?



6:4。常に秩序側が若干優勢みたいだけど最近は混沌側も智慧をつけてきて、膠着状態らしい。
一時期8:2まで秩序側が優勢になったらしいんだけど、それでも完全クリアにはならなかった経緯があるそうだよ。



戦力が拮抗した2陣営のどちらかを完全勝利させる術を探せ、か…。
さすがミカナギ。難易度めちゃくちゃ高そうだけど、腕が鳴るな!
負けないからなー!



……俺、なんか別条件な気がするけどな。(※小声)



……え?なんて?



いや、何でもない。受けて立つよ。面白そうだ。



ふふ。じゃ、あとは頑張って。ログインは、そこのポータルからね。



了解!
…よっしゃ!行こうぜ!よっちゃん!!



こら、本名で呼ぶな!



あ、ごめん。まぁ、いいじゃん。ハル君だけだし。ほら、行くよ!



もう…。じゃあな!ハル!いろいろありがとな!



どういたしまして、頑張ってね。
……頼んだよ、ふたりとも。
そして物語は本編へ……。
LYRICS
Symphonic Legend『MMORPG:”Kosmos or Chaos?”』
交響唱Ⅱ 大規模多人数同時参加型オンラインRPG「秩序か混沌か」
HARU


――頼んだよ、ふたりとも。――
CV: つきみぐー、
●1A【パンイチ事件】
TOBARI(翳の月)+ ALICE, AYA, ETERNAL ABYSS
夜の帳に 急転洗礼
翳の月は 涙の夢と
手を組み歩き始めて
初ログイン早々、初心者狩りに遭うトバリ。可哀想に。
ちなみに犯人は……アヤ率いる少年’s。(アリス、エターナルアビス)


●一方その頃①●
ADA, AYA, VERONICA
『Meanwhile, in other world...』
●1A‘【初期武器盗難事件】
SHIN(晨の剣)+CANAAN, LIZA, RICO, RIE, RUBIA, SUN YOUKA
晨の剣 奪われ
陽の華は 愛の祷の
罪に巻き込まれてゆく
こちらはログイン早々ネリネに初期武器を奪われるシン。可哀想に。
ちなみにこの時ネリネは規則違反をしてルビアに追いかけられています。





ざ~こ!!!



なんですって~?!
●1B
GODMOTHER(混沌女王):主旋律 ROSEE(涙の夢):ハモリ
二つの国に 分かたれし火
互いの女王を 殺めんと
●1B‘
CASABLANCA(秩序女王):主旋律&下ハモ1 NERINE(愛の祷):上ハモ2
争い続ける戦力に溺れてゆく
第1回大規模PK戦!
K or Cプレイヤーの皆様方の発言仔細につきましてはこちらでご確認ください。かしこ。


●戦闘開始●
ETERNAL ABYSS, LIZA, SAMSARA, VINA
EDO, RICO, RUBIA
『Now, let’s kill each other!!』
『――!ENGAGE!――』
●1C ●TEAM CHAOS



狩り獲れ!



撃ち抜け!
力を ただ示せ!



切り裂け!



惑わせ!
“QUEEN = GODMOTHER”に続け!
●1C‘ ●TEAM KOSMOS



防御を!



回復を!
力をさぁ、合わせて!



唱えよ!



討ち取れ!
“QUEEN =CASABLANCA”に捧げ!
●1C‘ 【QUEEN】
我らの望みを叶えよただひとつ“無知の知”を!
我らの望みを叶えよただひとつ“無知の知”を!
秩序国優勢!初心者トバリはロゼを守って瀕死の重傷!
シンが止めるも、そんな彼らをなぜか救おうとする規則違反の神、ネリネ。


●1D
●ROSEE(涙の夢):輪唱1 ⇔ ●TOBARI(翳の月):輪唱2
『いつだって役立たずなの』『貴方のようになりたいの』
『君を守るよ 泣かないで』
そして、ネリネからロゼへの唐突なプレゼント。 その意図を読んだトバリは……


●1D‘
ROSEE(涙の夢):輪唱1 ⇔ TOBARI(翳の月):輪唱2 ●TEAM CHAOS
『大丈夫 愛の祷の導きのまま 歌って』『涙よ 降らせ!』
『助けられる?』『“アクアマリン”よ 瑞夢を降らせ!』
『涙よ 歌え!』
ロゼ覚醒!ヒーラーとして花開く。
※混沌国逆転勝利!
以降、国内一の弱者だったロゼは混沌国のアイドルと化します。


第1回大規模PK戦 終了
★1E
NERINE(愛の祷), ROSEE(涙の夢), SHIN(晨の剣), TOBARI(翳の月)
秩序と混沌――。
その初めての密約を成し遂げた僕らに“愛”は語る――。
★1E‘
●NERINE(愛の祷)
『“無知の知” に近づく為には 更なる仲間が必要かもしれない』と――。』
彼女にはどうやら皆とは別の思惑があるようだ……


そして彼らは日常へ…。 停戦期へ突入した彼らだったが…?
●1F
●ROSEE(涙の夢) ●GODMOTHER(混沌女王)←●ALICE, BERG(精鋭LT)護れ!
VS↑●TEAM KOSMOS
両極の女王を崇める Player versus Player Battle!!
繰り返す Save Respawn 得られない援護
●『Ah~』(※LONG TONE BATTLE)
●1F‘
●NERINE(愛の祷)●CASABLANCA(秩序女王)←●RIE, RUBIA, SAMSARA, VERONICA(精鋭LT)護れ!
VS↑●TEAM CHAOS
殺戮を繰り返す日常
近づいては遠ざかるカタルシスと永遠に戯る牢獄の様
●『Ah~』(※LONG TONE BATTLE)
●2D
●NERINE(愛の祷):輪唱1 ⇔ ●SHIN(晨の剣):輪唱2
『いつだって役立たずなの』『ただ“視る”しかできないの』
『君は答えを知ってるの?』
陣営問わず仲間を集めたいネリネだったが、 なかなかうまくいかず…


●2D’
●NERINE(愛の祷):輪唱1⇔●SHIN(晨の剣):輪唱2 ●TEAM KOSMOS
『大丈夫 必ず辿り着いてみせるから見てて』『騎士の 誓いを!』
『クリアできる?』『約束よ? 誓いを!』
『必ず辿り着いてみせるから見てて』『約束』『騎士の誓いを!』
●2A
●GODMOTHER(混沌女王) – 混沌国『ケイオス』
混沌を統べし銃腕
その聖杯は涙の美酒で
満たされ続けている
●TEAM CHAOS:
『Yes, Ma’am!』『To the might of our Queen of Chaos!』『Bottoms up!』
●一方その頃②●
BERG, ETERNAL ABYSS, LIZA
『Meanwhile, in other world...』
●2A‘
●CASABLANCA(秩序女王) – 秩序国『コスモス』
秩序と結びし純潔
その白き百合の花は
慈愛の毒を囁く
●TEAM KOSMOS:
『Yes, your majesty!』
●2B
●SHIN(晨の剣):主旋律 ROSEE(涙の夢):ハモリ
二つの国を 渡り歩く火
互いの女王へ 迫ろうと
●2B‘
●TOBARI(翳の月):主旋律&下ハモ1 NERINE(愛の祷):上ハモ1-2
争い続けた陰と陽に 可能性の灯を
苦労しながらも彼らは徐々にクリア条件へと近づいていく…


第2回大規模PK戦!



楽しみです!



行こうか!



ちょっと待ってくださいよ~



おっそい!早くして!!
●戦闘回避●
AYA, CANAAN, OPHELIA, RIE
KUREHA, LUNAMELA, SUN YOUKA
『Now, shall we clear this game?』
『――!DiSENGAGE!――』
●2C
●SHIN(晨の剣)●NERINE(愛の祷) ←協力:●TEAM CHAOS
夜空に 藍光を 届ける 愛の歌
正しき 答えを “聖杯” に注げ!
●2C’
●TOBARI(翳の月)●ROSEE(涙の夢) ←協力:●TEAM KOSMOS
碧空に 紅雨を 降らせる 涙の詞
躓く 自由で “純潔” を染めて!
ネリネとロゼは“敵国”の仲間達の協力を得て、
“敵地”で同時に女王謁見の間への道を開くことに成功するのだった。




●1C‘ 【QUEEN】
我らの望みを叶えよその鍵は欠けた“精神”
我らの望みを叶えよその鍵は欠けた“精神”


●3C
●SHIN(晨の剣) ←協力:●TEAM CHAOS
●TOBARI(翳の月) ←協力:●TEAM KOSMOS
―― 僕らの約束――
『必ず完全攻略する』
“秩序”と“混沌”
今こそ!
●3C



愛と涙の寵児……



愛と涙の寵児……
●3C‘
●NERINE(愛の祷) → 融合→ ●GODMOTHER(混沌女王)
●ROSEE(涙の夢) → 融合→ ●CASABLANCA(秩序女王)
“ LINK START ”
『―― 接続開始――』
ロゼとネリネが起こした奇跡により、 女王達は自らに欠けていた感情を手に入れる。


●3D
●CASABLANCA(秩序女王) ⇔ ●GODMOTHER(混沌女王) ●TEAM KOSMOS ●TEAM CHAOS
『我が精神には涙の月』『宿って互いを知った』
『我が精神には愛の陽が』
『完全攻略の宴だ』
●3D’
●CASABLANCA(秩序女王) ⇔ ●GODMOTHER(混沌女王) ●TEAM KOSMOS ●TEAM CHAOS
『祝福の鐘鳴らそう 世界を統べし者達へ 閉ざされる時まで』
『世界が やがて閉ざされる その時まで』
『鐘鳴らそう 世界はやがて閉ざされる』
★2E(ENDING)
●TOBARI(翳の月) ●SHIN(晨の剣) ●ロゼ(涙の夢)
秩序と混沌――。
その幕引夢の終わり消えゆく僕らに“涙”は告げる――。
●NERINE(愛の祷) ●CASABLANCA(秩序女王) ●GODMOTHER(混沌女王)
『“L.A.N.”へ還りなさい』
●ロゼ(涙の夢)
『“N P C”に恋した愛しき“翳の月”へ。大好き。忘れないで。』と――。


ミカナギ


――クリアされてしまったか……。なら、彼らには報酬を弾まないと、ね。――
CV: 結城碧


VOCAL SECTION
担当ジョブパート


コーラスパート

